研究課題/領域番号 |
22K13308
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
張 子弦 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (10822661)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フランス倒産法 / 民事手続法 / 倒産法 / 個人倒産 / 破産管財人 / 消費者破産 / 免責 / 債務者の個人情報 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代のフランス倒産手続における権利剥奪効(Dessaisissement)の概念の意義と役割を明らかにしようとするものである。本年度は、資料収集により、次のような研究活動を実施した。 まず、破産手続の開始に伴う債務者の管理処分権の喪失と、憲法が保障する「裁判を受ける権利」との対立の問題について、フランス法においても同様な議論がある。倒産手続における債務者の当事者権保護の問題に関する研究に先立ち、フランス民事手続法における「弁論権」と「弁論原則」の議論を究明する必要があると考え、研究論文を執筆した。同論文において、フランスのデジタル時代の司法制度改革の影響も踏まえながら、破産債務者の弁論権に関する検討も行った。 また、Dessaisissementの債権者に対する影響について研究を行った。取締役責任の事案において、フランス商法典L.651-2条により、倒産手続開始後、取締役に対する責任追及権が裁判上の清算人(日本法でいうところの破産管財人)に専属することとなる。これは、倒産手続開始後に生じた手続法上の権利(訴権)移転の一例である。この点について、フランスではどのように考えられているのかということを明らかにするために、同問題を詳しく論じたフランス語論文を翻訳した。 資料調査と判例分析の結果、権利剥奪効と実体法との対立は個人の破産手続でしばしば争われ、権利剥奪効の例外のほとんどは破産者の身分上の権利である、という結論に至った。そして、中国初の個人破産法といわれる「深セン経済特区個人破産条例(試行)」の運用が注目を集めている。そこで、視野を広げて今後の研究作業に備えるために、報告者は、上記の問題意識のもと、深セン個人破産条例を題材に、破産手続の開始が自然人債務者の身分上の権利(扶養権、監護権など)に如何なる影響を与えるかとの問題を中心に検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、「Dessaisissement」の概念に関する史的考察を行うことを予定していたが、近時、フランスでは倒産と関連する法改正が多く、それに関する資料収集およびデータ整理が必要であった。歴史的検討について論文執筆は予想以上に時間がかかったため、その代わりに、今年度は、Dessaisissement概念の所在への探求に着手し、それがよく問題視された具体的な場面を見出すことができた。具体的事案における準備的検討としてのものは、日本語・外国語で順次公表されており、本科研の研究目的は順調に進展している。 また、本研究と深く関わりのある個人破産と免責についてもフランスで数多く論文および著書が公刊され、そのいずれも入手することができて、いまは購読を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、前年度までに調査した内容を理論的にまとめ、その研究の成果を紀要論文として公表することを目指す。倒産の局面におけるDessaisissement問題の解明をしようとした矢先に、フランス倒産法の全体への理解が不可欠である。そこで、近時の改正及び判例を調査することにより、次年度は、まずフランスの個人(消費者)倒産の全体像を明らかにすることを試みる。そのうえで、本研究の主要課題に関するフランス法における最新議論と裁判例も調査する。そのために、積極的に国内外で開催されている学会やシンポジウムに参加し、外国の研究者および同じ問題関心を持つ国内の研究者との意見交換を試みたい。
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