研究課題/領域番号 |
22K13309
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
吉原 知志 大阪公立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70805308)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 事業法 / 借家権 / 都市法 / 都市計画 / 決議訴訟 / 公私協働 / 公共組合 |
研究実績の概要 |
今年度は、不動産法制の公法私法関係を考察する上で重要なフィールドとなる都市法について、総論的・各論的双方の視点から考察を深めた。 まず、論文「区分所有法上の建替えと借家権の調整」の執筆、研究会報告「マンション関連事業における派生的権利の包摂問題」の報告・質疑応答を通じて、都市整備を進める事業法の中での私権の扱いに着目して都市法内の各種権利・利益の調整の仕組みを明らかにした。考察の結果、私権を事業法の中で適切に処遇する前提として、事業遂行を決定する機構そのものの法体系上の位置付けをはっきりさせる必要があることを示した。ただし、考察の素材とした区分所有関係では、管理組合を公共組合と位置付けることは困難であり、体系上の位置付けについて課題を残すことも明らかにされた。 次に、論文「建替え・解消決議を争う特別の訴訟制度の検討」の執筆を通じて、不動産権利者の意思決定を組み込んだ事業過程の法的安定性に関する検討を行った。私法である団体法の枠組みと、行政法の枠組みのいずれかを強化することが考えられるが、前者のアプローチを採用した場合の課題について明らかにした。 また、以上のような個別の立法論的・解釈論的課題を検討する際の原理的視点を明らかにするため、論文「マンション法制の都市法的把握と課題」の執筆を通じて、区分所有権という都市法上の位置付けの未解明の制度を素材に、私権である所有権を都市法の視点から考察する枠組みの構築を試みた。考察の成果として、行政計画を体系的に再構成することを通じて、所有権のあり方に規範的な誘導の道筋をつけることが重要であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、不動産に関わる法体系を私法と公法の両面から考察しつつ、実効的な法制を構想していくことにあるが、その際、基本的な参照領域は、都市空間の法的処遇を定める都市法となる。本年度は、都市法の総論的考察として所有権を中心とする私法と個別都市法制である公法との間の調整のあり方を考察し、各論的考察として借家権など所有権から派生する私権の事業法制上の扱い、不動産権利者の集合的意思決定の規律を明らかにした。以上の研究の進展は、当初予定していた素材である農業法制を扱うには至らなかったものの、十分に予定された課題の解明に当たると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は公法である都市法と私法の調整の仕組みの解明に取り組んだので、次年度は私法の研究にも立ち戻りつつ、公法と私法の両者を俯瞰する問題関心から考察し、体系的な解釈を示すことに取り組む。その成果は、これまでの研究成果として、まとまった形で公表することを目指す。公表業績の作成過程で、これまで取り組んできた私法の研究と公法の研究を総合する考察を行うことを予定している。 他方で、当初の研究計画で取り組むことを予定していた農業法制の研究についても、下準備を進めていく。既に資料収集には取り掛かっているが、これを進め、本年度まで取り組んできた都市法の研究との比較を行い、個別に取り組むべき論点の抽出作業にも従事する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の公表を予定しており、その準備費用として次年度に使用を繰り越した。次年度またはさらに次の年度での研究業績公表のための使用を予定している。
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