研究課題/領域番号 |
22K13354
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
西海 洋志 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (00836075)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国際秩序 / 存在論 / 国際関係論 / 言語行為論 / 意味世界 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、次の二つである。①「国際社会の哲学」を構築・体系化してく第一歩として、「国際秩序の存在論」を探究する。つまり、「国際秩序それ自体がいかなる存在なのか」を哲学的・思想的に考察する。②第一の目的を追求することによって、国際関係論(IR)というディシプリンを再構築するための共通基盤を提示する。この二つの目的を追求し、両目的の連関を明らかにするために、本研究は「言語」に着目し、「国際秩序は言語的な存在である」という仮説の下、研究を進める。 上記の目的を追求するため、本研究は以下の順序で「国際秩序の存在論」を考究しつつ、IRの実証主義的研究と哲学的・思想的研究を架橋し、両者の共通基盤となり得る視座を提示する。まず、(i)IRにおける英国学派(English School)と構成主義(Constructivism)の再検討を通し、言語哲学の視座に依拠する「国際秩序の存在論」がIRで忘却されてきたことを明らかにする。次に、(i)で得られた知見を手がかりに、(ii)国際秩序は単なる物質的・物理的な存在である以上に、「言語的な存在」であることを詳察する。そして、(iii)国際秩序の存在論をさらに考究していくことで、IRを再構築するための共通基盤を提示する。 2023年度は、上記(i)に関する研究を進めつつ、(ii)の研究にも着手した。言語哲学・言語行為論に加え、エマヌエル・アドラー(Emanuel Adler)の「認知進化の社会理論(social theory of cognitive evolution)」、エルンスト・カッシーラー(Ernst Cassirer)やノルベルト・エリアス(Norbert Elias)の「シンボル」に関する議論などを参考にしている。また、近年、IRにも導入されつつある「関係論的転回」の視点を本研究に結びつけるような基礎的な研究・考察にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、1年目(2022年度)に、「(i)IRにおける英国学派(English School)と構成主義(Constructivism)の再検討を通し、言語哲学の視座に依拠する「国際秩序の存在論」がIRで忘却されてきたことを明らかにする」ことまでを行う予定であった。ただし、文献・資料収集はかなり進展した一方、構成主義に関する文献の研究はまだ十分には進んでいない。また、英国でのアーカイブ調査の結果、C・W・マニングに関する興味深い資料を多数収集することができたため、そちらの分析に時間がかかっている状況である。 さらに、英国学派と構成主義の議論を考察するだけでは、「(ii)国際秩序は単なる物質的・物理的な存在である以上に、「言語的な存在」であることを詳察する」という研究の次のステップへの接続が難しい。そのため、本研究ではジョン・サールの言語行為論を中心とした議論を参考にする計画であるが、それだけでは不十分であると予想されるため、他の社会学的な議論(例えば、上記のエマヌエル・アドラーの議論、エルンスト・カッシーラーノルベルト・エリアスなどのシンボルに関する議論、「関係論的転回」に関する議論)についても、(i)と同時並行で研究を進めており、やや研究の進捗は遅れている状況である。とりわけ、近年のIRで注目されつつある「関係性」に関する議論(例えば、International Studies Association Annual Convention 2024 の共通テーマは "Putting Relationality at the Centre of International Studies")は本研究とも結びついてくると考えられるため、そうした最新の議論をフォローし、いかに結び付けていくかを考察することに多くの時間を費やさざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
現状、研究の方向性に関して大きな変更は必要ないと考えられるため、当初の計画に沿って研究を進めていくが、全体的に研究が遅れているため、スケジュールの計画変更は必要になりそうである。また、2年目には研究の対象範囲を広げ、研究成果の全体像が見えてきたが、やや対象範囲を広げ過ぎたため、3年目はインプットよりもアウトプットに比重を置き、これまでの研究・考察をとりあえず言語化・文章化してまとめることに注力する。まず、なるべく早く、(i)を中心とした基礎研究をまとめ、文章化する。この点に関し、2022年度に行ったアーカイブ調査の結果、マニングに関する興味深い資料を多数収集した。マニングの議論を詳察することは、本研究全体の基盤となり、本研究全体の目的に資するものである。他方、マニングに関する研究は世界的にも過小であり、収集した資料を用いてマニングの議論を振り替えることは、それ自体、大きな学術的な意義があると考えられる。さらに、(ii)言語哲学とIRにおける構成主義の観点から、国際秩序の存在論的考察を行い、(iii)その考察を、「シンボル」に関する社会学的な議論、「関係性」や「生成(becoming, なる)」を中心とする哲学的な議論と結び付け、本研究の基盤とすることで、本研究全体の体系的な記述を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年のInternational Studies Association (ISA) Annual Convention(2024年4月3~6日、米国サンフランシスコにて開催)で学会報告を行ったが、そのための海外出張経費(40万円弱)は2023年度の助成金を2024年度に繰り越して使用した。そのため、2024年度への繰り越し金額は、実質的には40万円程度であった。2024年度は、海外出張2回(資料集など研究・調査および学会発表)を行うとともに、国際学術誌への論文投稿のための英文校および国際学術誌の論文掲載に助成金を使用する計画である。
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