研究課題/領域番号 |
22K13370
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
高 晨曦 九州産業大学, 経済学部, 講師 (00909955)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サービス / サービス産業 / 産業分類 / 収入の弾力性 / 経済のサービス化 / 物質的労働 / 生産的労働 |
研究実績の概要 |
本研究は、今日まで続く論争中のテーマのなかでも「経済のサービス化」をどのように考えたらよいかという方法論への理論的関心を軸に構成されたものである。サービス提供に関するミクロ理論とマクロ理論とを統合することを通じて、「経済のサービス化」現象を理解するための方法論的革新の模索を取り込んでいる。 令和4年度は初年度であり、本研究は「サービスとは何か」という根幹的な問題から出発し、「経済のサービス化」を説明するために解決しなければならない二つの課題を提起し、その解決方法を模索した。これらの課題は、経済学説史における「サービス」への経済的形態規定の曖昧さ(サービスへの形態的・歴史的規定、サービスへの素材的規定の混在)、および「サービス業」の範囲を区切る産業分類の三部門モデルの理論的根拠の欠如(「収入の弾力性」理論の不完備)である。 第一の課題に対し、本研究はサービス概念の混乱の原因としてアダム・スミスによる二重の定義を指摘し、この問題の解決にはその定義がどのような文脈で引き継がれているのか、また現代のサービス論争や国民所得論争といった議論にどのように関連しているのかを調査することが重要であると考えた。 第二の課題に対し、本研究は現行の産業分類の三部門モデルに確たる理論的根拠が欠けていることを指摘し、その基となる「収入の弾力性」理論には致命的欠陥があることを明らかにした。そのうえ、本研究は産業分類の三部門モデルは財ーサービス、物質的・非物質的労働、価値生産的・価値不生産的労働などの二分法のいずれとも矛盾することを検証し、このモデルが経済分析に適切でないという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「経済のサービス化」現象を理解するための方法論的革新を追求することである。令和4年度の初年度では、「サービスの本質」に関する根本的な問題を解明することを目指し、経済のサービス化現象に適した理論的枠組みの探求に取り組んだ。 本年度の研究において、本研究は1)サービスへの古典的規定の二重性に基づき、「古典的サービス」という範疇を発見し、その意味と現代の「サービス」概念との違いが、これまでの経済学説史における混乱の原因であることを明らかにし、研究報告を行った。 2)産業分類の三部門モデル(「サービス産業」あるいは「第三次産業」の基礎)の理論的根拠を検証し、それを古典的サービスに対しても適用できるかどうかを検討した。しかし、産業分類の三部門モデルの基である「収入の弾力性」理論の致命的欠陥が露呈された。現行産業分類に適用可能な代替分類法として、労働の生産性、労働の物質性、労働の価値生産性などのいくつかの分類法を検討したが、それらの有効性は確認できず、産業分類の三部門モデル自体が経済分析に適切でないことが最も有力な仮説となった。この仮説を論文にまとめ、投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在の成果を踏まえて、スミスによるサービスへの二重の定義を調和する可能性を探る今後の課題を、古典的サービスと現代の「サービス」とを包括的に扱える理論的枠組の模索によって解決し、産業分類の三部門モデルを使用せずに、「経済のサービス化」を描写するアプローチを引き続き検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ジャーナルへの投稿スケジュールに合わせて、事前に論文審査料、掲載料を計画したが、ジャーナル側の論文の査読および審査に予想以上に時間がかかり、令和4年度では使用できなかった。当該助成金は引き続き令和5年度に、論文の査読および審査プロセスが完了後、必要になるため、令和5年度で使用される予定である。
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