研究課題/領域番号 |
22K13372
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研究機関 | 北星学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
山本 慎平 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 准教授 (40771431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 新渡戸稲造 / 経済思想 / 知性史 / 札幌農学校 / ド・ラヴレー |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、新渡戸が札幌農学校教授時代に教えていた「経済学」や「経済原論」「政治経済」などの経済分野の講義を学生が記録した講義ノート(北海道大学大学文書館所蔵)の分析を行った。前年度に新しく撮影した講義ノートのデータは、クラウドソーシングなどの助けを借りつつ文字起こしを行った。文字起こしをしたデータをもとに、講義内容の分析を行った。8月に行われた、日台国際学術交流会では「新渡戸稲造と台湾の糖業政策」というテーマで報告を行ったが、台湾で新渡戸が組合を重視した背景について、講義ノートの分析結果の一部を利用した。 また、講義ノートの分析結果については、12月の経済学史学会北海道部会で「新渡戸稲造の経済思想-札幌農学校教授時代を中心に」というテーマで報告し、2月のポランニー研究会で「明治期における経済学の受容と新渡戸稲造の経済学講義」というテーマで報告した。これらの報告では、調査で分かった、新渡戸が使用した参考書、イギリス古典派とドイツ歴史学派への新渡戸の態度、ベルギーの経済学者ラヴレーの経済書の重視などを明らかにした。報告での質疑応答も踏まえ、新渡戸が当時の経済学をどのように受容したのか、新渡戸経済学にどのような特徴があるかについて論文を作成中で、2024年度に完成させる。 北海道大学図書館の新渡戸蔵書については、すでに撮影したアダム・スミス『国富論』への新渡戸の書き込みの判読作業を更に進めた。判読作業に思いのほか時間がかかり、調査はまだ完了していないが、成果についてはある程度まとまり次第論文・または研究ノート執筆にとりかかる。 また、受講ノート調査の過程で、新渡戸が講義で使用した参考書などがわかったので、北海道大学附属図書館の札幌農学校文庫と東京女子大学図書館の新渡戸稲造記念文庫を訪問し、ラヴレーの著作などの蔵書を中心に、書き込みの有無を調査し、撮影を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も引き続き、新渡戸稲造が札幌農学校教授時代に行った経済学講義の受講ノートを分析することを通して、新渡戸の経済思想の一端を明らかにした。今年度はより詳細な分析を行い、講義ノートの内容から新渡戸の経済思想の一端を明らかにすることができた。 明治期の日本で経済学講義に広く使用されていた経済学書の著者として、イギリス古典派経済学の流れをくむアメリカ人経済学者アマサ・ウォーカー、フランシスA.ウォーカー、フォーセット夫妻やイタリアン人で歴史学派のルイージ・コッサなどがいる。 新渡戸講義ノートの参考書には、アダム・スミスやJ. S. ミルなどイギリス古典派経済学の著書と、ロッシャー、コッサなどのドイツ歴史学派の著書が共に使われていることがわかった。そして古典派を受け継ぎ日本でもよく読まれたフォーセットやフランシス・ウォーカーの著書も多用されている。 また、特にベルギーの学者エミール・ド・ラヴレーの経済書が重視されていることが特徴的である。ラヴレーとの個人的なつながりや、彼の経済学への共感がラヴレー経済学の重視につながったといえるだろう。 新渡戸が講義を行った時期は日本の経済学が古典派から歴史学派へ移る転換期であった。新渡戸はドイツで学んだが、歴史学派一辺倒ではなく使い分けが必要だと指摘していることは昨年度明らかになった。今年度のノート分析では、さらに新渡戸自身は古典派と歴史学派の「中間」にあると明確に立場を明らかにしていたことがわかった。 最後に、新渡戸は講義の中で協同組合の組織に言及しているが、札幌で協同組合について講義を行い、そのことが後の台湾での「糖業改良意見書」における組合の重視につながった可能性があることを指摘した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新渡戸稲造の札幌農学校における経済教育について。新渡戸が西洋の経済学をどのように受容したかについて、新渡戸が札幌農学校教授時代に教えていた経済分野の講義を学生が記録した講義ノート(北海道大学文書館)をもとにした分析を完了させる。受講ノートの書き起こしを行った部分の整理を行い、この時期の新渡戸の経済思想を明らかにする。特に以下の点について、精査する。 ①講義の中で、新渡戸はイギリス古典派とドイツ歴史学派の使い分けが必要であると指摘しているが、どのように使い分けるべきと考えていたのか。またその理由は何か。②新渡戸はベルギーの経済学者ラヴレーの経済学を重視している。その理由について、新渡戸の講義とラヴレー経済書の内容を比較しつつ明らかにする。③複数ある新渡戸の経済分野の講義はどのように関係しているのか。札幌農学校のカリキュラムなども参考にしつつ明らかにする。 これらの成果を学会で発表し、論文として投稿する。 (2)新渡戸蔵書の書き込み調査について。アダム・スミス『国富論』への書き込みの判読作業を引き続き行う。判読作業と文字起こしはクラウドソーシングなども利用して進める。新渡戸がどの部分を重点的に読み、どこに、どのように関心を持ったのかを論文もしくは研究ノートにまとめる。また、最終年度は東京大学経済学図書館新渡戸図書(新渡戸稲造旧蔵書)に所蔵されている経済分野の蔵書の書き込み調査を行う。
受講ノートの調査と新渡戸蔵書の書き込み調査を新渡戸の既存の著作と比べつつ、新渡戸の西洋経済学の受容について、イギリス古典派、ドイツ歴史学派、ラヴレー経済学の3点から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入が少なかったため。使用計画に変更なし。
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