研究課題/領域番号 |
22K13427
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
佐野 仁美 政策研究大学院大学, 大学運営局, 専門職 (90901223)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 気候変動 / 金融リスク / キャッシュレス政策 / 異分野間データ融合 / 位置情報 / 局地的大雨 / 水災害 / XRAIN |
研究実績の概要 |
本研究は、気候変動が金融機関に与えるリスクを定量的に表す方法論の構築を目的とし、災害前後に変化が生じる傾向のある現金需要を局地的大雨発生時にフォーカスして可視化し、金融機関に与えるリスクを定量的に予測するモデルの開発を行う。今年度は、降雨観測情報と大手都市銀行の現金引出情報を互いの位置情報を利用して融合し、降雨状況と預金者の現金引出動向について地点別・時間帯別の相関分析を行った。 本研究の特徴は位置情報を利用した気象情報と金融情報の融合であり、気象情報は国土交通省が観測する高解像度降雨観測情報のXRAIN、金融情報は大手都市銀行より提供された位置情報付きの現金引出情報を利用した。本研究では、まず、XRAINの降雨実績について降雨地点別・降雨強度別・時間別に発生頻度を累計し、関東都市部のATM設置地点別・時間別の現金引出情報と突合した。これらから、降雨の状況と現金の引出状況について月別・日別・時間別推移を可視化し、相関分析を行った。加えて、東京都中心地点から300㎞までの区域を同心円状かつ中心地点からの距離別に4区域に分割し、各区域におけるXRAINの降雨実績について降雨地点別・降雨強度別・時間別に頻度を累計して、各ATMの現金引出実績と突合した。これらにより、ATM設置地点から降雨発生地点までの距離に伴い、当該区域の降雨状況と実際の現金引出額の傾向が異なる事象を可視化できた。これらから、本研究における今年度の成果としては、「現金引出額は降雨強度および面積に比例する傾向」、「現金引出件数は近隣の大雨ではなく遠方の事象に誘発される傾向(備えとしての現金引出)」を具体的事例として取得することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的は、気候変動が金融機関に与えるリスクを定量的に表すための方法論の構築である。本研究の計画は、第一段階として気象情報と金融情報の変動について過去の災害事例を基にした時空間解析により傾向を学習し、第二段階として現金移動を定量的に予測可能とするモデルを構築し、最終的にそれらを気候関連金融リスクの評価指標の一つに発展させるとして進めている。加えて、本研究はスコープを限定して短期間で一定の成果を出し、その成果から得た知見を基に高品質の新たな計画を定め、継続的研究(科研費獲得)を行うアジャイル型の開発として、迅速かつ確実に領域を拡大する計画で進めている。 この計画では、第一段階を今年度に実施し、第二段階を来年度に実施することとし、今年度は上述のとおり、実際の局地的大雨発生(2021年度)を事例として気象情報と金融情報の推移の相関に一定の傾向取得を実現した。これらから、当初の目的は完遂していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は申請時の計画に照らして順調に進捗していることから、第二段階の定量的予測モデルの開発に着手する。第一段階では、気象情報と金融情報を融合し、過去事例から得た傾向の学習を計画どおりに遂行した。しかし、この過程で、気象変化に伴う現金需要動向を更に精度高く捉えるためには、これら二種のデータに第三のデータとして「人流データ」を追加すると、預金者の現金引出動向をより顕現化できると考えた。本件については、現所属先にてYahoo DS.INSIGHTによる行動履歴データの無償利用が可能であるため、これらを付加し、新たな傾向把握を試行したいと考える。つまり、これらの試行後に第二段階へ進むため、第二段階の着手は当初計画より若干遅れる見込みである。しかし、全体スケジュールに影響しないよう進める前提であるため、当初計画にない分析を付加するものの、大きな計画変更とは捉えていない。当初計画に含めない発展的結果を獲得することで、モデル構築も、より効果的な結果を得られることを期待する。このように、本試行は全体計画のスムーズな進行に加え、次フェーズに繋げるための布石として位置づけている。 第二段階では、気象情報、金融情報および必要に応じて行動履歴情報を基に、降雨状況から現金引出需要(レベル値で設定)を定量的に予測するモデルを開発する。対象データの期間は予算の関係から2020~2021年までの2年間であるが、当該期間は年毎に気候に大きな差がなく、学習データの網羅性としては担保可能と考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算は当初予定の計画どおりに支出。極めて少額ではあるが、翌年度分に繰り入れ、翌年度分についても当初計画どおりに支出する予定である。
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