本研究は、気候変動が金融機関に与えるリスクを定量的に表す方法論の構築を目的として、特に気候変動に伴う水災害時の現金需要にフォーカスし、降雨状況と現金引出動向の相関を分析するものである。本研究の特徴は、「位置情報を利用した気象情報と金融情報の融合」であり、データは国土交通省が観測する高解像度降雨観測情報(XRAIN)と大手都市銀行提供の現金引出情報(ATMの設置地点情報付)を利用した。 本研究の成果として、第一に、大雨の強度と現金需要の間に相関があり、降雨強度と現金需要が比例することを示した。具体的には、「地点別・強度別・時間別の降雨発生頻度累計値」と「ATM設置地点別・時間別のATM引出頻度および金額の累計値」の推移を分析した結果、降雨強度および発生地点数と関東都市部における現金引出金額および引出頻度が比例する傾向を検出できた。 第二に、大雨発生地点からの距離に応じた預金者の行動傾向として、大雨発生時の現金需要は、早い時点からの準備的行動として発生する事例を検出した。具体的には、同心円状で東京都中心地点(東京都の国分寺駅に設定)から300㎞までの区域を距離に応じた4区域に分割し、各区域における降雨状況とATM単位の現金引出頻度および金額の推移を可視化した。この結果、ATM設置地点と大雨の中心地点が300㎞以上離れている場合に現金需要が高く、ATMの設置地点に大雨の中心地点が近づくのに従い、現金の引出頻度や金額が低下する傾向を検出した。 これらの結果から、本研究では、「大雨の中心地点からの距離に応じた店舗ごとの現金需要は定量的予測が可能」との結論が得られた。このため、本研究成果は今後のモデル構築における知見として寄与可能と考える。
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