研究課題/領域番号 |
22K13451
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
張 文テイ 新潟大学, 人文社会科学系, 講師 (10797103)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 燕三条地域 / 企業間取引ネットワーク / ネットワーク構造の比較分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、地域の中小企業ネットワークを対象として、近年経営学において注目されているフォルトライン理論を用いた組織設計の観点から地域全体のパフォーマンスを向上させるモデルを構築することにある。この目的のもと、(1)文献レビューや探索的事例研究を通して、「中小企業ネットワーク全体にとってベストとなるダイバーシティのフォルトライン」の構成概念を洗い出し、(2)これまでに主に大企業を中心に一般化された組織とパフォーマンスの因果的なメカニズムを明らかにし、(3)海外のローカル中小企業ネットワークの事例との比較を通して、ネットワーク全体のフォルトラインを弱めながら地域経済のパフォーマンスを向上する仕組みを明らかにすることが研究課題である。 これらの課題に対して初年度では、(1)文献レビューについては、「中小企業に通底するダイバーシティ・マネジメントのフォルトライン」の理論的・概念的考察に関する最新の研究を分析した。ここでは、主に、ダイバーシティがパフォーマンスに及ぼすプラス面を生かしながら、マイナス面を抑えるというフォルトラインの理論的背景を踏まえたうえ、フォルトラインの違いとパフォーマンスとの関係を明確にしようとした。また、初年度では地域内の企業ネットワークに焦点をあてて、新潟県内の中小企業を中心に調査を行うことがもう一つの課題となっていたため、日本有数の金属製品を製造している産業集積地として知られている燕三条地域の企業間取引ネットワークの構造について分析した。具体的には、燕市と三条市のプラスティック製品製造業企業間の取引ネットワーク構造を、企業間の仕入・販売の取引関係にもとづいて包括的に捕捉したデータセットにより分析し、ネットワーク構造の比較分析を学会で報告した。さらに、プラスティック製品製造業のネットワーク構造が労働生産性に与える影響の有無に関しても海外の学会報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に続き、新型コロナウイルス感染症の影響により、県外および海外でのフィールドワークの遂行が困難になったことから研究に遅れが生じている。さらに、妊娠・出産・育児が重なったことにより、理論的枠組みの精緻化と実証的な分析の双方に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、(1)文献レビューと探索的事例研究等を通して、日本の「中小企業に通底するダイバーシティのフォルトライン」の構成概念を特定し、(2)複数の地域間比較の調査を行うことによって、(3)地域全体のパフォーマンスと個々の企業のダイバーシティ・マネジメントにかかわる因果関係を解き明かしていくことが課題となっているため、今後の推進方策について、文献レビューと実証的研究の2つの観点から記載する。 (1)文献レビューでは、大規模企業のような大きな組織に典型的に見られる多様性の役割や機能に焦点をあてた先行研究を中心にレビューしてきた。本研究では、異文化経営論をベースとした多文化社会の実現を目指す立場とダイナミクスのチーム研究などの組織行動論をベースとした客観的な証明を目指す立場をあわせた立場をとり、日本の中小企業の組織的な補強にかかわる実践的な解を探ることが目的のため、今後は表層的と深層的な多様性を加えたデモグラフィー的な属性の多様性を考察する研究を中心にレビューする。 (2)実証的な研究については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により県外および海外でのフィールドワークが困難になったことから、二次資料の分析と県内の企業インタビューを中心とした研究を進めてきた。育児休暇が終了した後は新型コロナウイルス感染症と子育ての状況に注視しながら、県外および海外でのフィールドワーク調査を少しずつ増やしていきたい。これらの調査結果をもとに、新潟の中小企業群と比較して、現地の企業の価値共創ネットワークとダイバーシティ・マネジメントの度合いがどのように異なるかについて理論的フレームを構築し、ひとつの地域ネットワークという大きな組織においてフォルトラインをどのように弱めれば全体のパフォーマンスの向上が期待できるのかについて検討する。また、2つの学会で報告した内容を論文化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後休暇および育児休業を1年間取得しているため、研究を1年間中断することになった。そのため、休暇中に使用できなかった研究費を次年度以降に繰り越しすることが決定された。
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