研究課題/領域番号 |
22K13477
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
羽田 祥子 京都大学, 経済学研究科, 特定助教 (00938988)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オープンイノベーション / スタートアップ / 起業エコシステム / 企業間提携 / 提携相手選択 / 起業家の学習 |
研究実績の概要 |
技術や知見を核として成長を目指すスタートアップと起業家が、手段としてオープンイノベーションを志向しつつ、どのように不利益を回避して関係性をマネジメントしているのか、理論的に説明する枠組みを検討する全体計画の初年度となる。これまで外部能力活用というオープンイノベーションのパラダイムは、主に既存企業にとっての重要性に焦点を当てて議論されてきた。スタートアップが新規事業を創出して大企業が買収するという循環的な仕組みがある米国と異なり、日本では大企業が自ら新規事業開発を手掛けることが多い点で、ある意味「新規事業開発市場」においてスタートアップとの「競合」が発生している状況にもある。こうした状況下での関係性の非対称性の本質を追求することにより、理解不足に起因する意図せぬ衝突や利益喪失を防ぎ、オープンイノベーション促進に資する知見を獲得して、企業間提携やイノベーション研究への貢献を図ることを研究全体の目的としている。 本年度は提携相手選択への起業家の感情の影響を議論した論文が『組織科学』誌に採択された。起業家50名への探索的なインタビューの定性的分析から、自らリスクをとり新領域を切り拓いているという自尊感情に対する相手側の理解と、新事業に臨む相手企業の姿勢に自己との類似性を認識して生じる共感が、提携相手選択に影響していることを明らかにした。事業領域の近さや互いに補う関係性という従来議論されてきた選択基準だけでなく、組織と不可分であり感情を持つ個人である起業家の、対の関係性における感情への着目から、提携における両者の見方の非対称性の源泉を議論可能にした。既存企業とスタートアップが互いに「良い」相手を求めながらも理解不足により衝突する事態を回避し得る点で実務的意義があると考えられる。また、起業家が関係性における防御や相手選択の知恵をどのように身につけたのかを検討した論文の書籍収載が決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としての本年度は、成果の一つが『組織科学』誌に採択され、別途成果としての論文が書籍への収載が決定して最終段階にまで進み、全体計画から鑑みて順調に推移していると言える。一方で、本年度から進める計画としていた提携関係構築における起業家の防御についての深耕と、業種及び事業ステージの別に着目した新たな調査及び分析についてはやや遅れている。起業家等が登壇するオープンイノベーション関連イベント等への対面参加により探索して依頼するという当初想定した方法が、コロナ対応の長期継続による縮小や不開催、開催方式変更などにより難しくなり、文献調査や獲得したデータの追加的な分析に重点を置いたことが主な要因である。全体計画への変更の必要性は生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
スタートアップと起業家が自社の成長の手段として既存企業とのオープンイノベーションを志向しつつ、関係性から生じる不利益をどのようにマネジメントしているのか、理論的に説明する枠組みを引き続き検討する。その具体的な論点として当初の計画通り、防御、相手選択、知恵の学習に重点を置く。まず、既存企業との提携関係構築におけるスタートアップ側の防御について、獲得したインタビューデータのさらなる分析に加えて新たな文献調査及びインタビュー調査等によって議論の深耕を図り、実務的及び学術的な成果に結びつけることを目指す。さらに、実務的に引き続き活発化しているオープンイノベーション促進のための各種機関の枠組みや動きにも着目して、それらのスタートアップ支援がどのように行われてどのようなエコシステムを目指しており、スタートアップによる既存企業との関係性のマネジメントにどのように影響を与えているのかという観点からも検討を行い、文献調査、学会等での意見交換、機関や企業へのインタビュー調査などを行う予定である。多角的な視点からの分析を行った後、最終的な成果を書籍として出版して実務に資することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対応継続によるオープンイノベーション関連イベント等の縮小や非対面実施により、当初想定していた国内外での調査等を実施することが難しかったため、計画していた旅費の執行を来年度以降としたことが主な要因である。代わりに本年度はすでに獲得したデータの分析と文献調査に重点を置き、査読論文採択と書籍収載に向けての作業を進めた。本年度末頃より調査可能な機会が増えてきており、来年度から新たな機会を含めて予算執行(=調査)を進める予定である。
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