研究課題/領域番号 |
22K13541
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
三家本 里実 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (80863662)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 保育 / 虐待 / 不適切な保育 / 労働過程 / 労使関係 / 労務管理 / インタビュー調査 / アンケート調査 |
研究実績の概要 |
・具体的内容 本研究は、保育所で発生する「不適切な保育」の問題が、保育士の労務管理や園の方針・体制と密接に関連していることを、多角的に明らかにするものである。当該年度においては、おもに以下の二点に取り組んだ。(1)元公立保育園園長へのインタビュー調査の実施、(2)労働組合によるアンケート調査票・調査票の作成協力である。(1)東京都のA自治体が運営していた公立保育所で働き、園長も務めた経験のある方に、8月、および1月と計2回インタビュー調査を行った。聞き取りを通じて、「不適切な保育」がどのような条件下において発生しうるのか(運営主体の違いや人員体制のあり方)また、同様の事態が発生した場合、再発防止に向けてどのように問題が共有されるのかとうについて把握することができた。(2)「不適切な保育」や虐待といった問題の性質上、インタビュー調査の対象者獲得に難航した。そのため、保育士の労働問題に取り組む個人加盟ユニオン(労働組合)に協力を仰ぎ、当該問題に関するアンケート調査(インターネット調査)を実施するに至った。調査票の作成から参加し、1月より調査を実施、3月時点で100件を超える回答が得られている。
・意義、重要性 近年、保育所における「不適切な保育」の存在が報道されるようになったが、とりわけ2022年度においては、全国的に虐待の問題が発生し、広く社会的関心を集めた。静岡県で起きた事件では、加害保育士が逮捕されたこともあり、加害者の素質や教育課程の問題が大きくクローズアップされた。だが、報道を通じて事件の詳細を追っていくと、保育士個人の問題にとどまらず、保育所の人員体制や労働環境も無関係ではないことは明らかだ。保育所で発生する「不適切な保育」や虐待の背景にある問題を探ることは、喫緊の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・今年度の成果 本研究では、保育所の運営主体の違いによって「不適切な保育」の発生状況に変化があるかどうかについても、大きな関心を寄せている。その点で、現在は民営化されている元公立保育所で長年勤務していた園長経験者から、その過程および変化を聞き取ることができたのは、大きな成果であった。約40年間の勤務のなかで作成された保育日誌や園のたより(個人情報保護の配慮済み)、また、保育士として働くうえで指針としていた書籍や保育士同士の勉強会で使用されたレジュメなど、多様な資料の提供をいただいた。
・「やや遅れている」と判断した理由 その一方で、保育所内における虐待という問題の性質上、直接問題に関わっているか否かを問わず、対面でのインタビュー調査対象者を獲得することに苦戦した。そのため、当該年度においては、(1)当事者からの相談(労働相談に限らず、生活相談も含む)を受け付ける機関との協力関係の構築、(2)当事者へアプローチするためのアンケート調査の実施を行い、次年度につながる調査研究の土台作りに集中した。
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今後の研究の推進方策 |
先に挙げた、当該年度における(1)相談機関との協力関係の構築によって、保育士(経験者を含む)や子どもを保育所に預けている保護者から、何らかの相談があった際には、本研究の趣旨に関連する聞き取り調査ができないか、確認してもらうことの確約を2つの団体より得た。今後は、相談機関から当事者の紹介を得られることになっているため、インタビュー調査を実施する予定である。また、そこでアプローチできた聞き取り対象者から、スノーボールサンプリングによって新たなインタビュー調査対象者を獲得することを目指す。 当該年度に行った(2)アンケート調査については、保育士からの労働相談に対応する労働組合のアンケート調査の調査票作成段階から参加したことで、当事者の声が直接に反映されている個票に当たれることが可能になった。自由記述も複数用意したものとなっているため、本アンケート調査は、インタビュー調査で得られるデータと同様の価値があるといえる。今後は、本アンケート調査の結果の分析を進める予定である。 以上から、当初の研究計画から大きな変更はなく、計画通り進める予定である。
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