研究課題/領域番号 |
22K13542
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂井 晃介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10880974)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 社会システム理論 / 福祉国家 / 社会国家 / 保険監督 / ポリツァイ / 政治と学術 / 専門家 |
研究実績の概要 |
本研究は、政治制度と他の諸制度の関係を踏まえた政策形成のメカニズムに関する理論枠組みを精緻化し、それに基づいて学術的知見の政治的参照という観点から福祉国家形成を比較歴史社会学的に考察するものである。 初年度である2022年度は、政治と学術の構造的カップリングという理論的洞察を洗練させる理論研究に取り組みつつ、その応用研究として、1. 保険制度への国家介入をめぐるポリツァイ学の変容、および2. 2020年の日本におけるコロナ対応の事例分析を行った。 1については、しばしば別個の研究として行われる傾向にあったポリツァイ学の学説史的研究と、保険制度への国家介入という保険監督の政策的研究を組み合わせ、どのような学術的知見が、経済活動への国家介入を正当化していったのか、そうした正当化論理はどのように変化していったのかを明らかにした。その結果、ポリツァイ学が19世紀半ば以降再編され、政治経済学や行政学に役割分化していく中で、保険監督はより自由主義的に行われるようになり、その根拠づけも公共の福祉や治安維持ではなく、経済活動の節度ある活性化による社会的利益の増大に移っていったことが明らかとなった。 2については、専門家組織と政策決定がコロナ対応をめぐっていかに関わっていたのかを、専門家組織の役割変容に着目する形で考察した。その結果、公衆衛生上の緊急事態が生じた際にも、社会の機能的分化は簡単には停止せず、むしろ複数の機能領域が自律性を維持しながら特定の関心のもとで関わり合うという状況が経験的にも観察されることが明らかとなった。そして、社会的問題解決のための学術と政治の協働の実像を明らかにするうえでは、個々のアクターの属性を前提するのではなく、そこでいかなる水準のコミュニケーションが行われているのかに焦点を合わせることが分析上重要であることも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年は研究成果を国際学会で報告し、重要なフィードバックを得ることができた(3本)。またその成果は査読付きジャーナルに掲載された(2本)。日本語でも論文として成果を出すことができ、専門家から有益なフィードバックを得ることができた。こうした点でおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は比較研究を本格的に進めるために、2022年度は本格的に進められなかった国内・国外での調査を進め、本研究の対象であるドイツ・イギリス・日本の事例について資料を網羅的に収集する。その分析も集中的に行い、成果を出すことに注力する。 それと並行して、本研究が依拠する自己言及的システム理論を基礎とした比較歴史社会学の理論・方法を洗練させる。そのために国内外の社会学理論研究者や歴史研究者と積極的に交流し、自身の研究成果を報告しフィードバックを得る。
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