研究課題/領域番号 |
22K13543
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研究機関 | 福岡県立大学 |
研究代表者 |
黒川 すみれ 福岡県立大学, 人間社会学部, 講師 (10883431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 職業キャリア / 系列分析 / ライフコース / 女性の就業 |
研究実績の概要 |
本年度は分析に新たなデータセットを加えたことにより、研究対象と分析手法を拡張して追加分析を実施した。 これまでは「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(労働政策研究・研修機構)を使用してきたが、「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(東京大学社会科学研究所)を新たに追加することにより、多世代の女性の職業キャリアが分析可能となった。さらに、パネル調査を利用することによって配偶者の就業履歴も把握することができ、女性の就業履歴を配偶者の就業履歴と合わせて検討するカップルキャリアの分析が可能となった。(主に家計補助と家事労働による)家庭との調整役を担いやすいという女性(妻)の就業は、世帯主(男性)の就業状況に強く影響される。夫婦の就業履歴を分析することによって、女性就業の実態をより詳細に検討することができる。この分析には、系列分析の手法の一つであり、複数の履歴(チャネル)を同時に分析できるマルチチャネル分析を適用した。 夫婦の就業履歴の組み合わせをみると、いくつか特徴的なカップルが明らかとなった。夫婦ともに専門職ホワイトカラー正社員の組み合わせは世帯年収がもっとも高く、若年期から共稼ぎ高収入カップルだったケースが想定される。結婚満足度と生活満足度も高く、比較的若いコーホートに多い組み合わせである。また、専門職ホワイトカラー正社員の夫と無業の妻の組み合わせ(専業主婦カップル)も結婚満足度・生活満足度が高い。夫の年収は高水準で上昇幅も比較的大きく、妻は一時的に就労するケースがあるものの、基本的には専業主婦で子どもがいる家族のかたちをとっている。特に夫の結婚満足度が高いのが特徴である。この分析は女性の職業キャリア研究としての成果であるほかに、系列分析のマルチチャネル法の有効性の検証を試みた成果でもある。この分析結果は第75回数理社会学会大会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たなデータセットを含めた追加分析を行ったことにより、夫婦の就業経歴の基礎分析を実施できた。本研究課題の1年目に実施した系列分析の方法論的・理論的議論の整理の成果をふまえたものであり、当初の研究計画通りに進んでいる。また、系列分析を手法として用いている国内の研究者と研究会を立ち上げ、代表者として研究会の運営にあたっている。手法の議論や研究成果の報告の場を積極的に確保し、研究のペースメイクに有効活用できている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はさらに新しいデータセットを追加し、女性の職業キャリアの世代間比較を試みる。また、女性の職業経歴と家族経歴の2つの視点からのキャリア類型に取り組むことで、ライフコース的視点からの議論をまとめる予定である。 代表者を務める系列分析の研究会による成果報告会を企画しており、女性の職業キャリアに関する研究成果のほか、系列分析の方法論的議論を通して、履歴データに系列分析を適用することの有効性も、研究成果として広く公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に国際学会(The XX ISA World Congress of Sociology in Melbourne, Australia, June 25-July 1, 2023)での報告を予定していたが、報告申込までに十分な分析・考察に至らなかったため、報告を見送った。次年度は別の国際会議(The LIVES Centre and the nccr - on the move jointly organize an international conference at the University of Geneva, Switzerland, on 5-6 November 2024)での報告を計画している。円安による旅費の高騰を考慮し、次年度使用額は主に国際会議参加に伴う旅費に充てる。
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