研究課題/領域番号 |
22K13551
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研究機関 | 高千穂大学 |
研究代表者 |
栗原 亘 高千穂大学, 人間科学部, 准教授 (80801779)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レジリエンス / 脱・人間中心的アプローチ / エコロジー / アクターネットワーク理論 / ケア / ウェルビーイング |
研究実績の概要 |
2022年度は、レジリエンス論と脱・人間中心的アプローチ(NAA)それぞれに関する資料の収集・整理・検討をおこなった。 まず、レジリエンス論の資料については、レジリエンスやその周辺の概念に関する理論的な議論から、その実践的な応用を目指した議論、さらにレジリエンス論に対して批判的な議論まで、幅広く収集した。そして、これらを検討し、議論の現状の把握を試みた。その結果、理論的なレベルでの洗練の試みやレジリエンスの発想にもとづく多様な実践的試みが活発に提起され続けている一方で、レジリエンス概念の定義の曖昧さや、その保守的な性格などに由来する限界に対する批判も数多く存在している現状が浮き彫りとなった。また、レジリエンス概念に基づく様々な実践の中には、力のポリティクスと呼べるような発想にとらわれているものも多く、そのことが、エコロジーをめぐるポリティクスのさらなる進展を妨げうることも明らかとなってきた。 NAAについては、特にアクターネットワーク理論(ANT)と強い影響関係にある諸議論を中心に、それらに対して批判的な議論も含めて幅広く資料を収集し、NAAをめぐる議論の現状を把握・検討することを試みた。その結果、今日では、NAA的な観点から具体的な実践を生み出そうとする試みが数多く展開されるようになっていることを確認することができた。同時に、そうした多様化するNAA的な実践の試み自体をも含めて記述の対象とする立場(ANTの元来の立場)に立つこともまた、ますます必要となっているという見解に至った(この検討の成果については、『現代思想』第51巻3号にその一部を公開した)。そして、こうした、NAA的な発想に基づく実践そのものを含めて記述の対象とするような立場は、上述したようなレジリエンス論が抱える問題を乗りこえるうえでも役立つだろうという見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の欄に示したように、2022年度におこなう予定であった作業はおおむね完了した。このことから、おおむね順調に進展しているといえる。ただし、以上の作業を通し、レジリエンス論が抱える問題が想定していたよりもかなり多いことも明らかになったため、今後の作業は当初の見通しよりも若干困難なものとなることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、「研究実績の概要」で言及した問題点を乗りこえることを目指す。すなわち、まず、レジリエンス概念およびそれに基づくアプローチが有する保守的な性格は、場合によっては、現在のエコロジー的な危機において本来採られるべきアプローチの採用を妨げたり、既存のさまざまな問題をそのまま温存してしまったりする傾向を生み出しうる。また、レジリエンス概念に基づく実践の多くは、望ましくない何かとの「闘争」(e.g., 「気候変動と戦う」)を主軸とした、いわば力のポリティクスと呼べるような発想を暗黙のうちに採用してしまう傾向にあるが、本稿の見解では、こうした発想は、多様な存在を可視化し、共生の在り方を模索するという、レジリエンス論が本来取り組むべき課題を見えにくくしてしまう。これらが、乗りこえなければならない問題点である。 以上を念頭に、本年度は、NAAの議論の中でも、特に「ケア」の発想を前面に押し出したフェミニスト科学論の立場などを参照・検討していくことにしたい。それは、「望ましくない何か」との絶えざる闘争ではなく、人間・非人間から成る多様な絡まり合いを捉え、それらの間の関係をどのようにして「ケア」していくのかという、まさに共に生きることそのものに焦点を当てる立場である。すなわち、「闘争」を主軸にした議論が、「戦力」となる要素やそれらの間の強固な「同盟」といった、いわば「強者の世界」を主題化する傾向にあるのに対し、「ケア」を主軸にした議論は、共に生きる多様な存在同士の関わり合いや、そこにおける生存とウェルビーイングを正面から主題化するのである。本研究は、こうした議論に学ぶことでレジリエンス論は、既存の秩序を守る闘争のための保守的な強さの議論ではなく、トラブルを抱えながらも、それと向き合い、共に生きる世界を粘り強く育てていく議論としてより十全に展開しうるという点を追究していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の研究遂行上必要な消耗品(文房具)の購入費が、当初の想定よりも安く済んだため、若干の余剰が出た。この分は、2023年度の消耗品(文房具)の購入費として使用予定である。
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