研究課題/領域番号 |
22K13580
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研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 沙織 (高間沙織) 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (20782030)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 医療扶助 / 病院 |
研究実績の概要 |
戦後日本の生活保護の捕捉率は、先進諸外国より低いものの、「医療ニードには積極的に対応してきた」といわれている。実際、路上で暮らす生活困窮者の保護開始場所として医療機関が多くなっていたり、生活保護の受給が決定されにくい稼働年齢層の男性でも、医療ニードがあれば受給が決定されやすくなっている。医療扶助単給の実績も生活扶助以外の他の扶助に比べて多くなっており、医療扶助費は生活保護費のなかで最大費目となっている。 ではなぜ戦後日本では、医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開されることになったのか。本研究の目的は、医療ばかり頼らない支援体制の構築に向けて、上記の問いに答えを提示することである。 そこで本研究は、「なぜ戦後日本では医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開されることになったのか」という問いを解明するため、「戦後日本において医療扶助は誰にどのように給付され、誰をどう処遇してきたのか」という作業課題を、2022年度から2024年度までの間に、段階的に検討している。 2023年度は前年度に引き続いて「医療扶助は誰にどのように給付されてきたのか」を検討した。支援団体の職員にインタビュー調査を実施した結果、彼らの展開する健康相談が、他の支援よりも当事者に受け入れられやすいことが判明した。生活困窮者処遇が医療ニードには積極的に対応している背景には、他の生活問題では相談しようとしない当事者でも、自身の健康問題であれば相談しやすいことがある可能性が示唆された。 ゆえに今後は、当事者たちが他の生活問題より健康問題をより相談しやすい背景に、生活保護行政の運用がどのように関わっているのかを歴史的に検討していく必要がある。以上が2023年度の実績の概要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「なぜ戦後日本では医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開されることになったのか」という問いを解明するため、「戦後日本において医療扶助は(1)誰にどのように給付され、(2)誰をどう処遇してきたのか」という二つの作業課題を、2022年度から2024年度までの間に、段階的に検討している。 2023年度は前年度に引き続き、作業課題のうち「医療扶助は(1)誰にどのように給付されてきたのか」を検討した。方法として、当事者たちにアウトリーチしている複数の支援団体の職員にインタビュー調査を実施した。 インタビュー調査の結果、次の二点が明らかになった。第一に、支援団体の展開する健康相談が、他の支援よりも当事者に受け入れられやすいことが判明した。ゆえに、生活困窮者処遇が医療ニードには積極的に対応している背景には、他の生活問題では相談しようとしない当事者でも、自身の健康問題であれば相談しやすいことがある可能性が示唆された。 第二に、支援団体が生活保護に当事者をつなげた後に、当事者の生活を見守っていても、支援団体が把握しないうちに医療機関に入院・転院させられ、当事者との関係性が切れてしまうことがあると聞き取れた。これは二つ目の作業課題である「医療扶助は(2)誰をどう処遇してきたのか」に関わる語りであり、医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開された結果、どのような問題が歴史的に生じているのか、その問題を今後どうしていくのかを考察する足掛かりになる可能性がある。 インタビュー調査から第一の作業課題について考察が深まり、第二の作業課題の解明の糸口が見つけられたことが現在までの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
先に指摘したように、支援団体の職員にインタビュー調査を実施した結果、彼らの展開する健康相談が、他の支援よりも当事者に受け入れられやすいことが判明した。生活困窮者処遇が医療ニードには積極的に対応している背景には、他の生活問題では相談しようとしない当事者でも、自身の健康問題であれば相談しやすいことがある可能性が示唆された。 ゆえに今後は、当事者たちが他の生活問題よりも健康問題をより相談しやすい背景に、生活保護行政の運用がどのように関わっているのかを歴史的に検討していく必要がある。歴史資料、行政職員、支援団体および当事者へのインタビュー調査をもとに検討し、医療ニードには積極的に対応している生活困窮者処遇の背景を構造化していく予定である。 加えて、支援団体が生活保護に当事者をつなげた後に、当事者の生活を見守っていても、支援団体が把握しないうちに医療機関に入院・転院させられ、当事者との関係性が切れてしまうことがあると聞き取れた。ゆえに今後は、「医療扶助は(2)誰をどう処遇してきたのか」という二つ目の作業課題をさらに解明するため、資料調査およびインタビュー調査を実施し、医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開された結果、どのような問題が歴史的に生じているのか、その問題を今後どうしていくのかを考察していく予定である。 具体的には、病院での医療扶助入院に焦点を当て、治療の必要がないのに医療扶助を受給しながら長期入院や短期頻回転院をすることになっている原因と、退院後の受け皿が見つかりにくい原因を、各アクターの関係性を歴史的に整理することで明らかにする。 そのうえで、「なぜ戦後日本では医療ニードには積極的に対応する生活困窮者処遇が展開されることになったのか」という問いに最終的な答えを導き、医療ばかり頼らない支援体制の構築方策を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度中に産前産後の休暇、育児休業のため研究を中断しており、次年度使用額が生じている。研究再開は2025年度である。 2025年度以降に、資料調査(ケースワーカーなどの手記、『医療扶助運営要領』、関係する通知など)での出張旅費や複写費、インタビューデータ分析ソフトの購入、インタビュー調査(支援団体、当事者、医療機関など)への謝金などのかたちで使用していく予定である。
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