研究実績の概要 |
1.緒言 「高分子と低分子の分子間相互作用」は科学の諸現象を考察する際に基本的な概念であるが、複雑な因子が多く、研究は極めて少ない。そこで、単純化した分子間相互作用のモデルとして、高分子素材に対する有機化合物の吸着現象に着目し、種々の天然・化学繊維が固有の有機化合物の吸着特性を示す事がわかった。本件では、セルロース由来の繊維に対する有機化合物の吸着を検討し、セルロースの構造の違いから吸着傾向の解釈を試みた。 2.実験 1) 材料 ①繊維:天然繊維(綿)、再生繊維(レーヨン)、半合成繊維(アセテート)。繊維はメタノールで抽出後、乾燥した。②吸着物質:有機化合物(ベンゼン置換体,アセトニトリル,ジオキサン,DMF,デカンなど)、炭素数の異なるアルコール。2) 吸着実験:有機化合物の飽和蒸気にフィルムを40℃で24時間吸着させた。吸着物質を酢酸エチルで抽出し、ガスクロマトグラフィ-(Shimadzu GC-2025)で分析した。単位重量に対する化合物の吸着量を計算した。 3.結果と考察 セルロース由来の繊維、綿・レーヨン・アセテートに対して、9種の有機化合物の混合物からの吸着を検討した結果、次の事がわかった。1) 綿は、DMF、ジオキサンの順に吸着割合が多かった。2) レーヨンは、蒸気圧の高い有機化合物を吸着しやすく、メタノール、ジオキサンの順に吸着割合が多かった。綿の結晶化度は70~80で密な構造をしているが、レーヨンは結晶化度35~55であり、分子の配列が不規則である。分子の配列が吸着傾向に影響したと考えられる。3) アセテートは、綿やレーヨンと比較するとトルエン、p-キシレン、アニソールを吸着しやすい。アセテートが有するアセチル基(-COCH3)と有機化合物のメチル基(-CH3)との相互作用と考えられる。
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