研究課題
近年,昆布締めが刺身の呈味性を格段に上げる調理法として再注目されている.本研究では,昆布締めにおける昆布-魚肉間の物質移動や魚肉内生化学反応およびそれらの複合的な効果を明らかにすることを目的として,メタボローム解析,ペプチドーム解析および食品科学的分析を行う.まず,天然マコンブおよび養殖マコンブを用いてヒラメの昆布締めを調製し,OPTIC-4を用いた網羅的な香気成分の分析を行った.結果,天然マコンブは養殖マコンブよりも同定された香気成分の種数およびそれぞれの強度が高く,香りが強いことが示された.また,簡易的な官能検査を行った結果,天然のマコンブよりも養殖のマコンブのほうが昆布締め材料として好まれる傾向にあった.養殖マコンブは,天然マコンブよりも味・香りともに劣るため,流通価格が低い.本研究で得られた結果は,養殖マコンブの利用可能性を拡げるものといえる.さらに,旧来のように長時間昆布で締めて脱水させたものよりも半日程度締めたものが好まれる傾向にあった.旧来の調理条件は保存性を付与する一方,魚肉自体の味や香りは昆布によって大幅にマスキングされる.したがって,現代的な嗜好に合う昆布締めの条件検討が必要といえる.次に,養殖マコンブおよび養殖ヒラメを用いて,昆布締め中の魚肉から昆布への水分移動について調べた.結果,昆布締め開始から昆布の含水量が増加し,約12時間後にプラトーとなった.また,魚肉については,昆布との接触の有無による水分勾配が生じた.昆布締め中の魚肉内部での水分移動において何らかの律速因子が存在することが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,物質移動に関する解析を進められている.また,計画には無かったものの,天然マコンブと養殖マコンブによる違いについて検証した結果,養殖マコンブ(現在は流通価格が顕著に低い)の新たな利用価値が示され,産業的に有用な知見を得られた.
引き続き,昆布締め中における昆布-魚肉間の物質移動について解析し,拡散方程式に基づく物質移動モデルを構築する.また,昆布締め中のタンパク質分解およびタンパク質変性についても分析を行い,魚肉中の水分含量変化との関係を検討する.
多方面からの協力を得られたことによって,試料(昆布および魚肉)費および調査費が当初の支出計画よりも大幅に抑えられた.R5年度の助成金と合わせ,R5年度に実施予定のタンパク質分析に係る諸費用に使用するとともに,R4年度に得られた成果発表に係る旅費として使用する予定である.
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