研究課題/領域番号 |
22K13616
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
清水 友里 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (70758359)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 木桶味噌の香気 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の伝統的な発酵調味料である木桶味噌の熟成と加熱調理により生じる塩味増強効果の影響を評価することである。 味噌の仕込み容器については、木桶で熟成することにより、最終製品に木桶ならではの風味が加わり、味がまろやかにおいしくなると漠然と認識されていたりするが、味噌の風味やおいしさに木桶が及ぼす影響について科学的にアプローチした研究は少ない。また、申請者が以前行った研究において、木桶により長期間発酵熟成させた味噌は、仕込み容器の違いにより熟成の状態が変化するだけでなく、木桶特有の香りが味噌の風味に影響を与えることにより、味噌の塩味を増強させる効果があると考えられたことから、新たな試料を用いて分析を行うこととした。 令和4年度は、実験室で調製した仕込み容器の異なる味噌および、味噌の製造業者の協力を得て調製した仕込み容器の異なる味噌を用いて香気分析を行うこととした。 令和3年度に実験室で調製し、木桶およびプラスチック容器で熟成させた米味噌を用いて、ガククロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を用いた香気分析を行ったところ、味噌の特徴的な香気成分が認められた。今後はより詳細に仕込み容器の違いによる香気成分の違いを検討する予定である。 また、長崎県にある味噌製造業者の協力を得て、米味噌を調製し、木桶とプラスチック容器で熟成させ、仕込み時から経時的に試料回収を行っている。熟成に用いている木桶はスギ材のものである。今後はこの試料を用いて香気分析および官能評価を行うことにより、味噌の塩味への影響を評価する。また、令和5年度以降は同じ容器に新たに味噌を仕込むことにより、より木桶の影響を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、実験室で調製した仕込み容器の異なる味噌および、味噌の製造業者の協力を得て調製した仕込み容器の異なる味噌を用いて香気分析を行うこととした。 令和3年度に実験室で調製し、木桶およびプラスチック容器で2か月~10か月熟成させた麹歩合10、塩分濃度11.5%の米味噌を用いて香気分析を行った。熟成に用いた木桶はサワラ材のものである。固相抽出法により香気成分を抽出し、ガククロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を用いた。味噌の特徴的な香気成分であるカラメル様の4-Hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl-3(2H)-furanone(HEMF)やポテト様のMethional、甘い香りのMaltol、スパイシーな香りの2-Methoxy-4-vinylphenolなどの香気成分が認められた。今後はより詳細に分析を行うとともに、木桶自体の香気成分を抽出、分析することによって木桶に特有の香気成分の探索を行っていく必要がある。 また、長崎県にある味噌製造業者の協力を得て、令和4年10月に麹歩合10、塩分濃度11.5%となるよう米味噌を調製し、木桶とプラスチック容器に熟成させた。熟成に用いている木桶はスギ材のものである。仕込み時から3か月ごとに経時的に試料回収を行っている。回収した試料については、水分分析、色調測定、香気成分抽出を行っている。この試料については、12か月まで熟成させて経時的な香気成分の変化と、木桶に特有の香気成分探索、官能評価等に用いる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度以降は、令和4年度に味噌製造業者の協力を得て調製した試料を用いてGC-MSによる香気分析および官能評価を行う。香気分析では、定性分析により木桶に特有の香気成分の探索することとあわせてGC-O/AEDA法による味噌の塩味を増強する香りの探索を行う予定である。AEDA法は香気濃縮物を一定の倍率で希釈して注入、GC分離後、においかぎ口より溶出された成分のにおいの特徴を記録する方法である。同じ方法ですべてのにおいが感じられなくなるまで分析を繰り返し、においが感知できる各香気成分の希釈倍率からそのにおいの寄与度を推定することができる。寄与度の高い成分の添加試験により、塩味を増強する香りを探索する。また、申請者が以前行った研究において、木桶により長期間発酵熟成させた味噌の官能評価において、酸味の強さが有意に強かったことから、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて有機酸分析も行う予定である。さらに、風味の特徴を明らかにするためにも遊離アミノ酸分析も行っていきたい。 官能評価においては、仕込み容器の異なる試料について、加熱試料と未加熱試料を用いて塩味に与える影響を比較する。塩味への効果については、香りの影響を確認するため、鼻栓の有無で3点比較法により評価する。塩味以外にも、木桶味噌の風味の特徴については評点法により評価する予定である。 また、試料については、令和5年度以降は同じ容器に新たに味噌を仕込んで用いることにより、仕込み容器の違いと加熱の有無が味噌に及ぼす影響を香気分析及び官能評価により明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
味噌製造業者の協力を得て味噌を仕込むにあたり、特別に作成した木桶の準備が遅れて仕込み時期を秋以降にする必要が生じたため、味噌のサンプル回収に向かう出張旅費および回収した試料の実験に関わる消耗品費の使用に遅れが生じた。 令和4年10月に味噌を仕込み、順調に熟成が進んでおり、10月、1月とサンプル回収を行っている。引き続き製造元での試料の回収を続けるとともに、回収した試料の分析を行っていくため、今後は令和5年度請求分と合わせて出張旅費およびGC-MS分析、有機酸、遊離アミノ酸分析に用いる消耗品や試薬等で使用していく予定である。
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