研究課題/領域番号 |
22K13663
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
池井 晴美 千葉大学, 環境健康フィールド科学センター, 特任助教 (90760520)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 発達支援 / 園芸活動 / 療育 / 脳活動 / 自律神経活動 / 個人差 / 生体調整効果 |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、代表的な屋外療育の一つである園芸作業が発達障害児にもたらす生理的リラックス効果を明らかにすることである。 令和4年度においては、健常者を対象に実施したバラ生花の視覚刺激実験データを基に、個人差の観点から再解析を行い、バラ生花がもたらす「生体調整効果」を明らかにした。 自然がもたらす生理的リラックス効果には個人差があることが知られており、森林浴に関する先行研究では、元々の血圧が高い人は低下し、血圧が低い人は上昇するという「生体調整効果」が報告されている。令和4年度においては、バラ生花の視覚刺激が交感神経活動に及ぼす影響に関して、初期値の法則に基づいて「生体調整効果」を調べた。高校生、オフィスワーカー、医療従事者、高齢者の合計214名の健常者を対象に実施した被験者内実験データを基に、初期値の法則の観点から整理した。視覚刺激は、花瓶に生けられた匂いのないバラ生花による4分間の観察とし、対照条件は、バラ生花なしとした。交感神経活動の指標は、心拍変動性による低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)とし、自然対数値に変換することで正規化した。初期値は、対照条件時のln(LF/HF)値、変化分はバラ生花視覚刺激時のln(LF/HF)から対照条件時のln(LF/HF)を差し引いた値とし、両者の相関関係をピアソンの積率相関検定にて分析した。その結果、初期値と変化分の間に有意な負の相関が認められた (r = -.544, p < .001)。つまり、初期値において交感神経活動が高かった被験者は、バラ生花の視覚刺激によって値が低下し、反対に初期値が低かった被験者は増加することが分かった。 本研究の成果は、次年度以降実施する発達障害児を対象とした被験者実験にて得られるデータを解釈する上で重要であるとともに、現代人のWell-being促進と維持に貢献することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度においては、バラ生花の視覚刺激が健常者に及ぼす生理的影響に関して、個人差の観点から再解析を行った結果、「生体調整効果」を明らかにすることができた。得られた成果は原著論文として取りまとめ、IF付国際学術誌に投稿し、査読を経て掲載されたため「おおむね順調に進展している」と評価した。 申請者は、先行研究において、男子・女子高校生、男性オフィスワーカー、女性医療従事者を対象にクロスオーバー試験を実施し、バラ生花による短時間の視覚刺激が自律神経活動に及ぼす影響を調べた。その結果、バラ生花の視覚刺激は、対照条件(バラ生花なし)と比べて、リラックス時に高まる副交感神経活動の有意な上昇、ストレス時に高まる交感神経活動の有意な低下、脈拍数の有意な減少といった生理的リラックス効果をもたらすことを明らかにしている。令和4年度の研究においては、上記の高校生、オフィスワーカー、医療従事者に高齢者(100名)を追加した214名のデータを基に、初期値の法則の観点から再解析を実施した。その結果、初期値において交感神経活動が高かった被験者は、バラ生花の視覚刺激によって値が低下し、反対に初期値が低かった被験者は増加した。先行研究において、心拍変動性LF/HFは、覚醒・ストレス状態では上昇し、ぼんやりした状態(drowsy)では低下することが報告されている。これまで自然セラピー研究においては、ストレス状態における高いLF/HFが自然由来の刺激によって低下するという部分に焦点が当てられてきた。今回、バラ生花の視覚刺激は、高いLF/HFの低下のみならず、ぼんやりした状態での低いLF/HFの上昇という「生体調整効果」をもたらすことを明らかにした。本成果は、次年度以降実施する発達障害児を対象とした被験者実験にて得られるデータを解釈する上で、基盤的データとして位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度においては、以下の研究を実施する。 (1)バラ園への滞在が発達障害児に及ぼす生理的・心理的影響 バラ園内での歩行が発達障害児に及ぼす生理的・心理的影響を明らかにするため、被験者内実験を実施する。発達支援・放課後等デイサービス施設に通所する中高生約50名程度を被験者とし、施設近郊にある都市公園内のバラ園にて、フィールド実験を行う。対照条件は、公園周辺の都市部での歩行とする。生理指標は、心拍変動性による副交感・交感神経活動ならびに心拍数等を用いる。主観評価は、簡易SD法による「好き/嫌い感」等とし、支援員の聞き取りにて実施する。 複数回の予備実験を通して改良を加え、発達障害児に適用可能な実験プロトコルを構築する。本実験にて、データが取得できなかった場合、追加実験あるいは追加分析を行う。データの変化量が小さすぎる場合は、用いる刺激や計測時間等の条件を変更し、追加実験を行う。データのばらつきが大きい(個人差が大きい)場合は、被験者情報(発達障害の種類やレベル、性別、年齢等)との対応に関して、追加分析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 物品費として予備実験に使用する生体計測用電極や質問紙購入費を予算に計上していたが、使用しなかったため21,335円の次年度使用額が生じた。 【使用計画】 次年度の物品費として使用する予定である。
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