研究実績の概要 |
本研究は、読書の心理教育的活用のために、日本独自の文学教材リストを作成し、その有用性を検証することを目的として行われるものである。この目的のために、3か年の研究期間の初年度にあたる令和4年度では、心理教育的活用ができる日本版文学教材リストを作成するため、小学生を対象に感情体験の教材差を検証することを中心として研究を遂行した。 まず、現行の小学校国語科教科書に掲載されている文学教材(物語、詩)をすべて収集し、表題、作者名、文字数、対象学年、掲載出版社といった情報について整理した。延べ181作品の中から文学的価値等を鑑みて、文学教材71作品を検証する対象として選定した。次に、東京都内及び福島県内の小学校計28校に調査協力を得て、4・5・6年生児童約4,500名を対象に、郵送による自記式質問紙調査を実施した。これにより、文学を読んだ際の感情体験は、自己変容感情仮説(Kuiken et al.,2004;小山内,2014)の4因子構造で説明されることを確認した。また、感情体験に基づき、各文学教材の特徴や違いを表すことが可能であると明らかにした。特に、文学教材の特徴や児童の性別による感情体験の違いを視覚的に捉えるために、教材ごとに感情体験を偏差値化し、レーダーチャートとしてプロフィール化を試みたことで、学校現場における教材選定や指導の参考にするためのツールとして使用できる可能性を高めることができた。 この研究活動により得られた知見をまとめ、令和5年度に国内で開催される関連学会において研究発表を行う準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感情体験の教材差を検証するために質問紙調査を遂行し、データを収集できたことは計画通りの進行である。しかしながら、COVID-19の断続的流行による学級閉鎖等の影響で、当初2か月間で終了する予定であった調査が、令和4年11月から令和5年1月までの3か月間に延長された。さらに、当初は児童約2,000名を対象として調査を実施する予定であったが、予想以上に多くの学校関係者から協力を得られることとなり、倍以上の約4,500名を対象とすることとなった。以上の理由から、データ分析に時間を要することとなったため、文学教材リストの作成や研究成果発表準備(論文執筆等)がやや遅れていると判断している。
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