研究課題/領域番号 |
22K13800
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
正木 郁太郎 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (30802649)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 感謝 / ダイバーシティ / 集合的感情 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、企業組織で人が協働するうえでの「感謝」の重要性について、(1)感謝行動が様々な要因に与える影響を検討する。特に(2)集団(部署やチーム)を単位として感謝行動を介して強く結びつくこと(集合的感謝)の効果、(3)そうした結びつきが特に重要になる条件(調整要因)を探究することを目的とする。研究は<手法1>質問紙調査と、<手法2>企業内の行動データ分析の2つの柱で構成される。2022年度は次の研究を行った。まず<手法1>に関して、働く人を対象に2つのウェブ調査を実施した。1つめは「感謝行動」の質問項目作成を目標とした調査だった。多様な観点から感謝行動を測定する質問項目を作成し、感謝行動を促す要因(規定因)、感謝行動が効果を与える要因(帰結)の2つの質問項目群と合わせて調査を行った。分析結果をもとに感謝行動を測定するいくつかの尺度を作成し、学会発表と学術論文化に向けて整理を進めている。2つめは「感謝表出スキル」に注目した調査だった(民間企業で研究員を務める酒井智弘氏との共同研究)。1つめの調査から得られた感謝行動の質問項目に感謝表出スキルの既存尺度を加え、またダイバーシティの調整効果を検討することを目指した。データは分析途中である。<手法2>に関して、感謝や称賛に関する複数の行動データの分析に取り組んでいる。うち1つは本研究費の助成前から取り組んでいる内容だが、民間企業A社より許諾を受け、感謝に関する社内のコミュニケーション・データを研究目的で二次分析した。時系列を考慮した分析を行い、感謝行動や集合的感謝の効果の因果関係に踏み込む分析に取り組んでいる。成果は2023年4月現在査読付き学術誌に投稿、審査中である。なお、潜在的な利益相反関係の軽減のために、<手法2>の研究の実施には本研究費を使用しておらず、研究テーマが一部関連するのみの関係性にとどめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は本研究プロジェクトの研究課題に対して、①質問紙調査、②企業内のデータ分析の各々の手法を用いて、基礎的な検討を進めることができた。特に企業内のデータ分析については、時系列を考慮した分析も一定程度進められているという点で、想定よりも早く研究が進んでいる。一方で、計画当初から次年度以降に実施予定だったものも含まれるが、次の点は課題として残っている。まず、作成した感謝行動の尺度を用いて、集合的感謝に関する仮説検証を行う必要がある。そのためには、当該尺度を用いて、マルチレベル分析が実施可能な調査(e.g., 特定企業で実施する社内質問紙調査)を今後実施する必要がある。また、企業内の行動データ分析については、分析結果が特定の企業においてのみ得られた特殊な結果ではないことを確認するために、複数企業で結果の比較を行う余地がある。最後に、2022年度の調査では検討を先送りとしたが、「感謝」と「称賛」の機能の違いに注目した調査・分析も必要である。2022年度に行った先行研究レビューでは、称賛を感謝の下位概念として扱う研究も、両者を別の概念とみなす研究もみられた。これらを踏まえて本研究における立場を明確化し、両者の異同を改めて整理したうえで、慎重に仮説設計および調査・分析を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
既述したように、感謝行動を捉える質問項目作成、ならびに集合的感謝も含む企業組織における感謝行動の行動データ分析は一定程度進捗している。これを踏まえて、2023年度以降は次の4点を中心に、仮説の精緻化と、主に質問紙調査を用いた実証研究を行いたい。1つめの検討事項は感謝と称賛の違いの定量的検討である。両者は日常生活では区別して使用されることも多いが、前掲の通り、先行研究では必ずしも異同が明確でない。両者を捉える質問項目を作成し、弁別可能かを検討する。2つめの検討事項はダイバーシティによる調整効果の検討である。2022年度の調査・分析では感謝行動の主効果や、集合的感謝の主効果に注目して分析を進めた。そこで2023年度以降にはその効果を調整する要因を一部探索的に検討する必要がある。3つめの検討事項は、質問紙を使用したマルチレベル分析を行うことである。調査協力企業を募集し、質問紙を使用した場合にも感謝行動に集団を単位とした十分な共有性があるか、またそうした共有性がどのような帰結につながるかを分析する必要がある。そのため折に触れて積極的に協力いただける企業ないし組織を募集し、研究を進める。4つめの検討事項は、質問紙調査と行動データ分析の両方について、学術的な成果公表を進めることである。2022年度は調査の実施および完了が夏から冬頃にかけてになったため、年度内に開催される学会での発表が難しかった。2023年度以降は、学会発表・学術論文投稿などの方法により、得られた成果を適切な方法で公表できるよう、進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ分析のためのデスクトップパソコンの購入を予定していたが、本件とは異なる企業共同研究費を用いて購入することができたために、受領額の一部を繰り越した。残額は2023年度に実施予定のウェブ調査の業務委託費や、コンピュータ関連機器の購入に充てることを予定している。なお、昨今の新型コロナ禍の影響により、いくつかの学会大会が引き続きリモート開催になることや、中止になるなど、研究成果の発表方法の変更を余儀なくされる影響が生じている。一例として、当初発表予定だったICAP2023(国際応用心理学会)が開催中止になったとの告知があった。これを踏まえて出張旅費が抑制される一方で、地理的条件や社会情勢に左右されにくい投稿論文化を優先するために、関連する諸費用(論文のオープンアクセス化費用や英文校閲費)に想定よりも多くの費用がかかることを見込んでいる。
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