本年度は,前年度に引き続き,同じ対象者に対して縦断的質問紙調査を行ない,強みの認識・活用が自殺の抑制・促進要因や自殺念慮にもたらす関連性を検討した(1,2回目は2022年度に実施)。2022年度に報告した2回の調査の解析結果と同様に,強みの認識や活用が自殺念慮の低下と関連することが明らかとなった。ただし,不誠実な回答をする者の割合もそれなりに高く,最終的な解析対象者は当初想定していた人数よりも少なくなった点は課題である。 「強みの活用(特に他者に焦点を当てた強みの活用)は自殺予防に寄与する」という2022年度の成果を基に,本年度は介入研究によって,他者のための強みの活用が自殺念慮にもたらす影響を明らかにした。大学生を対象に,強みの活用を行い,記録する課題を行う介入群と,生活習慣を記録する課題を行う対照群とに分け,2週間の介入前後,およびフォローアップ時点での自殺念慮の変化を比較した。介入群で自殺念慮の低下がみられたが,対照群でも同じくみられた。介入研究では,強みの活用が自殺予防にもたらす効果が明確とはならなかったため,介入課題内容や時期の設定に関しては,今後の課題としたい。これまで自殺予防に強みの活用を生かす研究は少なく,本研究では部分的にではあるがその効果や可能性を実証的に示すことができた。 一連の研究成果は,2023年度に日本心理学会および日本行動科学学会の学術大会にて一般発表を行って公開した。また,査読付き学術論文として,現在投稿中であり,引き続き成果の公表に努めていきたい。
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