研究課題/領域番号 |
22K13883
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
杉本 匡史 関西学院大学, 工学部, 准教授 (50761342)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 空間認知 / スマホ地図 / 記憶 / デジタル機器 / 経路探索 |
研究実績の概要 |
2023年度はWeb調査を用いて、スマホ地図使用を促す要因と、スマホ地図使用によって生じる効用を明らかにするための研究を行った。 現代社会においてスマホ地図は幅広く使われており、特に若者はスマホ地図を好み、スマホ地図によって道迷い不安の低下や、活動範囲の拡大といったメリットを享受していると考えていることが調査によって明らかになっている。一方で、スマホ地図によって実現される効用の全体像は明らかになっておらず、またスマホ地図使用を促す環境要因・個人要因も明らかになっていない。 本研究では、スマホ地図使用が何によって促され、何をもたらすのかということについて、ユーザの主観的側面から、紙地図との比較を通して検討した。実験では20代から60代の合計1000名の参加者に対し、評価グリッド法に基づくインタビューを実施した。インタビューではスマホ地図および紙地図それぞれの使用場面において、その有用性の程度や、有用性が高く/低くなる具体的要因としてどのようなものがあるかについて参加者が回答した。さらに参加者は、自身の方向感覚や、スマホ地図/紙地図の使用経験および頻度についても回答した。これらのデータに基づき、スマホ地図使用がどのような環境要因・個人要因によって促され、どのような効用をユーザにもたらしているのかを明らかにするためのデータを収集した。2023年度に収集した主観的データを、これまでの研究における行動データと組み合わせることで、経路の記憶という点ではデメリットのあるはずのスマホ地図を、ユーザがどのように認知し、どのような理由で使用し続けるのかということを明らかにすることができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スマホ地図使用がどのような要因によって促され、どのような効用をもたらしているのかを正確に把握するためには、単にスマホ地図のアルゴリズムの分析をしたり、地図使用時のユーザの客観的な行動を観測したりするだけでなく、ユーザの主観的な経験を考慮することが必要である。このような主観的経験を抽出するためには、参加者の自由回答に基づくインタビューが有用な手法であるが、このようなインタビューデータは収集や分析にかかる時間的コストが大きい。そのため、方向感覚や年齢といった、本研究において重要となると考えられる個人差を検討に入れるために必要な量のインタビューデータを集めることは容易ではない。 2023年度の研究では、この問題に対して、半構造化インタビュー手法である評価グリッド法とWeb調査を組み合わせることで解決を図った。2023年度研究で得られたデータは参加者の自由回答に基づいているため、研究者側ではあらかじめ予測の難しい要因を抽出することができており、スマホ地図ユーザに生じている主観的体験を明らかにするための貴重なデータであると考えられる。また、データの量についても、1000名分の自由記述データを取得することができており、教示に従わなかった回答者の分析不能データが必然的に生じることを考えても、十分な量のデータを収集することができた。 このように、2023年度研究で得られたデータは質・量の両面で分析を行うために十分なものであることから、本年度の研究の進捗状況は順調なものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、これまでに得られたスマホ地図/紙地図使用時の行動データと、2023年度研究で得られたスマホ地図/紙地図使用時の主観データを組み合わせることで、スマホ地図使用時の行動・方略について、より詳細な検討を行う。 これまでの研究では、スマホ地図使用によって生じる効用や、スマホ地図使用を促す要因が、経路の記憶や地図への注視といった、実際のスマホ地図使用時の行動データとどのように関連するのかについては明らかにされてこなかった。今後の研究では、スマホ地図使用によって生じる効用や、スマホ地図使用を促す要因を体系化し、それらを実際のスマホ地図使用時の行動データの分析に用いることで、スマホ地図が実社会においてユーザに与える影響の作用メカニズムを解明する。具体的には、スマホ地図使用によって生じる効用や、スマホ地図使用方略を促す要因を操作することで、スマホ地図使用行動がどのように変化するのかを検討する。さらに、スマホ地図使用時には自身の経路記憶の低下に気づかないという「自信満々な方向音痴」の存在を明らかにするため、行動データ分析時にベイズ推定を活用して「スマホ地図使用時には客観的成績が低下するにもかかわらず、ユーザはそのことを自覚していない」という仮説の妥当性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際学会への出張を取りやめたため、次年度使用額が生じた。この金額については2024年度中に実施する実験において参加者を増やし、より多くのデータを収集することでデータの信頼性を向上させるために使用する予定である。
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