研究実績の概要 |
計画2年目である2023年度は、かなり緩い仮定のもとで複数の整数係数一次式の同時素数値を保証するGreen-Tao-Zieglerの定理を、一般の数体の整数環係数で同時素元値を保証する形に拡張する作業を完了した。次いで、これを多様体の有理点の存在問題に応用した。 Green-Tao-Zieglerの定理は素数の組合せ論の分野の有名な定理である。もっと有名なGreen-Taoの定理は、素数からなる任意の長さの等差数列が存在するとするが、これを特殊な場合として含む。主張は次のとおりである。f_1, ..., f_t をいくつかの変数に関する整数係数一次式とし、その定数部分を取り除いて得られる線型部分は互いに他の有理数倍になっていないとする。そして更に、どんな素数 p に対しても、変数の値を適切に定めると、その時の f_1, ..., f_t の値がすべて p と互いに素にできるとする。このとき、f_1, ..., f_t が同時に素数(Zの素元)になるように変数の値を定めることができる。また、そのような変数の値の漸近的な個数も計算できる。 証明のための全体的な戦略は、整数の場合を踏襲した。ただしこれを実行するには労力が要った。証明には素数と関わりない純然たる組合せ論の部分と、これを素数に適用するために数論的関数の評価計算をおこなう部分がある。組合せ論に関しては、Green-Tao-Zieglerが得ていた Z における諸結果を、整数環のような階数2以上の自由アーベル群に拡張する作業がまず必要であった。数論的関数の評価では、一般の整数環では Z とは異なり、元とイデアルが別の概念となることから、新たな工夫が要求された。 有理点への応用のためには、整数環を局所化した環に対する類似の定理を用いる。これを証明するために、もとの定理を、整数環そのものだけでなくイデアルに対して適切に拡張した。
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