研究課題/領域番号 |
22K13905
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
柴田 大樹 岡山理科大学, 理学部, 講師 (90804055)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スーパー代数群 / スタインバーグのテンソル積定理 / 既約表現 / フロベニウス核 / テンソル圏 / 中山関手 |
研究実績の概要 |
今年度は,清水健一氏(芝浦工大)との共同研究により,余代数に対して定義される中山関手のを詳しく調べ,ホップ代数の理論において知られていた種々の結果が,この中山関手の性質から説明ができることを示した.得られた結果は「Nakayama functors for coalgebras and their applications to Frobenius tensor categories」というタイトルの論文に纏め,雑誌社に投稿し,既に受理され掲載されている.また同氏と(ホップ代数の完全列の一般化として自然に考えられる)テンソル圏での完全列の性質に関して,ホップ代数の専門家である S.Natale 女史が提示したフロベニウス・テンソル圏に関する予想を肯定的に解決することができた.この結果は「Exact sequences of Frobenius tensor categories」というタイトルの論文に纏め,既に arXiv に投稿している. また,スーパー代数群の正標数の体上における表現論を展開するために,代数群のときに知られていたスタインバーグのテンソル積定理が,スーパーの場合にも然るべく成り立つことを示した.その際,基礎体やスーパー・ルート系に対してテクニカルな条件が必要であったので,今後のスーパー代数群の研究においては様々なことが非スーパーのときとパラレルに行かないのではないかという知見を得ることができた.これらの成果は「Frobenius kernels of algebraic supergroups and Steinberg's tensor product theorem」というタイトルの論文に纏め,既に arXiv に投稿している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予期していたとおり,正標数の体上の表現論に関して,大部分のスーパー代数群に対しては,既約表現のテンソル積分解(スタインバーグのテンソル積定理)が成り立つことが示され,論文に纏め発表することができた.しかしながら,その研究の過程で,基礎体の条件付けやスーパー代数群から得られ重要な道具であるスーパー・ルート系の挙動に関する条件付けが必要であることが分かった.これらは当初予期していなかったことである.従って,既約表現のパラメータ付けを(スーパー・ルート系の言葉で)行うという当初の計画に関しては,来年度以降に行う予定である. また,表現論の研究において見通しの良い議論を行うためには,圏論的手法は必須である.特にスーパー代数群の表現圏はテンソル圏の良い例になっている.そこで,一般の余代数(ベクトル空間を基礎として)に対して,中山関手の振舞いおよびテンソル圏の完全列を研究することにした.その結果,以前,増岡彰氏(筑波大学)と島田祐太氏(筑波大学)と共同で研究したスーパー代数群の積分に関する研究結果が,この言葉遣いでとらえ直すことが可能であることが分かり,より見通しの良い別証明を与えることができた.このけっかから,テンソル圏において中山関手のもつ性質に関する一般論を整備し,それをスーパー・ベクトル空間の圏上にあるスーパー代数群の表現圏に応用することが非常に有益な手法であることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたとおり,正標数の体上のスーパー代数群の表現論において,当初はスタインバーグのテンソル積分解定理が成り立つと予想されていたが,実際はその成立にはややテクニカルだが本質的な基礎体およびスーパー・ルート系に関する仮定を要することが明らかになった.従って,特に正標数の体上での既約表現の振舞いや,パラメータのスーパー・ルート系による記述を研究するにあたり,これまでのような統一的な議論を行うことがやや困難であることが予想される.そこで今後の研究の推進方策としては,統一的にスーパー代数群を扱わずに,個別の場合に既約表現の構造およびパラメータ付けがどの様になるのかを見ることにする.そして得られた結果を精査することにより,一般にどのような記述の方法をとるのがよいかを考察することにする. また,現在までの進捗状況で述べたとおり,スーパー代数群の表現の研究において,先にテンソル圏の方で一般論を整備する(特に中山関手の振舞いを研究する)ことにより,スーパー代数群の積分の存在性や性質などといった議論のいくつかが簡明になることが分かった.従って,今後の研究の推進方策としては,中山関手の性質を一般的な設定で調べることにより,スーパー代数群の表現論への応用を調べることにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカ数学会(AMS)の主催する研究集会に参加するための旅費(航空券)に関して,共同研究者であり指導学生である若尾亮太氏(岡山理科大学)と同行しその旅費を支出したこと,および世界的な物価高に伴って,当初計画していた額よりも多くなってしまった. 翌年度は,オンラインで各種学会に参加することにより,本年度に多く使用してしまった分を調整するので,研究計画自体には影響はない.
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