研究課題/領域番号 |
22K13925
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
植田 優基 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (40878120)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 自由確率論 / 有限自由確率論 / 極限定理 / 無限分解可能分布 |
研究実績の概要 |
Wojciech Mlotkowski, 堀田一敬, 佐久間紀佳と, 自由擬無限分解可能分布 (自由確率論におけるレヴィ=ヒンチン型表現のうちレヴィ測度の部分を符号付き測度まで許した分布)に関する研究を行った. 2022年度はFuss-Catalan分布の自由擬無限分解可能性について調べることに成功した. これはFuss-Catalan分布に関するMlotkowskiと佐久間との過去の共同研究で未着手であった部分を解決するものである. 本結果は既に準備していた論文に加筆し, 現在投稿中である. 長谷部高広, 野場啓, 佐久間紀佳と, ブール独立性のもとで定義される自己分解可能分布の正則性や正規分布のブール自己分解可能性について調べた. その中で, 標準正規分布はブール自己分解可能であるが, 正規分布の平均が十分大きいときそのブール自己分解可能性が破れるという, 古典・自由確率論では起こらない現象を発見した. 長谷部高広との研究で, 正規分布の自由レヴィ測度の漸近形を得た. 本結果は論文としてまとめた. 藤江克徳との研究で, 有限自由確率論における乗法的たたみこみによる多項式の大数の法則を証明した. この結果は, HaagerupとMoellerの自由乗法的たたみこみによる大数の法則の離散近似版とも言える結果だが, 証明法は基本対称式を用いた基本的なものであり, HaagerupとMoellerの証明で扱ったようなS変換の解析的な議論を必要としないことを強調したい. 本研究は国際雑誌SIGMAに既に掲載済みである. またこの研究に続き, Octavio Arizmendiと藤江克徳と有限分割に関する組合せ論的公式, 佐久間・吉田の極限定理の離散版, Kabluchkoの極限定理の別証明を与えた. この結果は論文としてまとめ, 現在投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由擬無限分解可能分布に関するMlotkowski, 堀田, 佐久間との研究は, Fuss-Catalan分布の例を発見したことにより, 既に投稿していた論文の結果を補強するものとなった. 極限定理の研究の観点から現れたブール自己分解可能分布に関する, 長谷部, 野場, 佐久間との研究に関しては, 当初はその具体例の発見や正則性の条件を調べることを目標としていた. これらの目標は達成されたが, さらに「正規分布のブール自己分解可能性」まで明らかになり, このことは思わぬ進展であった. 今年度から, 行列の固有値解析を念頭に置いた多項式の間のたたみこみである「有限自由たたみこみ」をベースとした確率論 (有限自由確率論) における極限定理の研究が発足した. 今年度は有限自由確率論に関する研究結果を2報論文 (1報は藤江との論文で既に国際雑誌への掲載済み, もう1報はArizmendi, 藤江との共同論文であり現在投稿中) としてまとめることができた. このことは研究開始当初には予想していなかった結果であり, 期待以上の進展を得たと考えている. また正規分布の自由レヴィ測度に関する長谷部氏との共同研究も, 当初予定していなかったものであった. 一方で自由極値理論 (自由最大値たたみこみをベースとした確率論) における極限定理の研究については大きな進展はなかった. またランダム行列への応用を念頭に置いた研究についても進展がなかったが, 有限自由確率論の研究が現れたことにより, 今後はこの研究との関わりでランダム行列の研究も行っていきたいと考えている. 期待以上の研究結果が得られた反面, 本研究課題内のテーマのうち進展が芳しくない点もあったため, 総合的にはおおむね順調に進展しているという評価が妥当である.
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響や学内業務などで, 令和4年度は海外出張が叶わなかった. また対面での研究打ち合わせの回数も多くなかった. その分, zoomでの打ち合わせやメール会議などで研究活動の工夫をしたことによって, いくつかの共同研究を完了することができた. その一方で海外の共同研究者とのzoom打ち合わせやメールでは, 時差問題があり, スムーズな議論や一度にまとまった議論を行うことが難しい問題があった. このような理由から共同研究の中には予想以上に時間がかかってしまったものもあった. 現在, コロナ禍による制限が緩和されつつあり, 今後は対面による共同研究・ディスカッションなどが盛んになると予想される. 国内外の出張を増やしていき, なるべく対面での議論を実現させ, スムーズかつまとまった打ち合わせができるようにしていくよう努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響や学内業務によって, 予定していた海外出張ができなかった. また前述の理由で, 国内出張の回数も予定していたより少なかった. 今後は, 海外の共同研究者との研究打ち合わせのため, 国内外の研究集会に参加するため, 出張・訪問受け入れを増やしていくことを検討している. また新たに始まった研究に対して必要な書籍の購入も行う.
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