研究実績の概要 |
今年度は, 多項式による自由確率論の近似理論である「有限自由確率論」と, 自由独立な確率変数の最大値を扱う「自由極値理論」の研究を行なった. 有限自由確率論からは, Arizmendi, 藤江, Peralesとともに有限自由積たたみこみを特徴づける解析的道具であるS-変換の研究を行なった. この研究を通じて, 積たたみこみによる新たな極限定理を得たことや, 先行研究で未解決であった自由積たたみこみによる極限分布の有限自由近似に関する問題の解決につながった. さらに自由極値分布の有限自由近似にも成功し, 自由極値理論との接点も生まれた.これらの研究成果は現在共同論文として執筆中である. 自由極値理論からは, 金田一とともにある種のvon Mises条件の下での自由極値分布への密度関数収束の証明とその収束レートを与えた. 特に, 正規分布をサンプルとする自由独立確率変数たちの正規化最大値は自由Gumbel分布に密度関数収束することを示し, 古典極値理論との対応がうまくいった. 本研究に関しても現在共同論文として執筆中である. また今年度は, 既に投稿中であったMlotkowski, 堀田, 佐久間との自由擬無限分解可能分布に関する論文が国際雑誌「ALEA, Latin American Journal of Probability and Mathematical Statistics」に, 長谷部との正規分布の自由Levy測度に関する論文が国際雑誌「Electronic Journal of Probability」に, 長谷部, 野場, 佐久間とのブール自己分解可能分布に関する論文が「Studia Mathematica」にアクセプトされ, それぞれ出版された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はテキサス農工大学のDaniel Perales氏やCIMATのOctavio Arizmendi氏といった海外研究者を北海道教育大学に招聘し, 国際研究集会「One-day workshop: free probability theory and random matrices」を企画した. ここに講演者の一人である北海道大学の藤江克徳氏も加わり, 有限自由確率論に関する共同研究がはじまった. この研究を通じて, 有限自由確率論の枠組みでのS-変換を理解できただけでなく, 自由確率論由来のオリジナルのS-変換の理解も深まった. さらに申請者の研究テーマの一つである自由極値理論との接点も表れた.このことは思わぬ結果であった. また今年度は自由極値理論そのものに関する研究についても進展があった. したがって, 今年度は当初予定していた計画以上の成果であったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
まずは研究実績にも記載した2つの共同研究の論文執筆を早急に行い, 国際雑誌への投稿を目指す. 今後はしばらく有限自由確率論, 自由極値理論, ランダム行列の3つの理論軸を中心に研究を進めていきたい. 有限自由確率論からは, 今回得られた有限自由S-変換についてさらに詳しく調べていきたい. またこの話題とは別に, finite free entropy に関するGribinskiによる問題にも取り組みたいと考えている. そのため, 作用素環論または組合せ論に詳しい研究者との議論や情報交換などを行っていきたいと考えている. 自由極値理論およびランダム行列からは, 最大固有値の振る舞いを記述するTracy-Widom分布と自由最大値たたみこみとの関係について詳しく調べていきたいと考えている. これにはランダム行列に詳しい研究者との議論が必要であると考えている. 学内業務に支障のない範囲で, できる限り多くの出張や学内招聘などを行い, 研究議論の場を設けていきたいと考えている. またzoomなどのオンラインシステムもうまく活用し, ディスカッションの時間を確保したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はノートパソコンやタブレット端末といった電化製品の買い替えや, 関連研究に関する新たな教科書の購入の必要が生じなかった. 出張に関しては, 今年度ニューヨーク大学アブダビ校 (アラブ首長国連邦) での研究集会参加を予定していたが, 学内業務の関係上中止することとなり, 国内出張による旅費が主であったため次年度使用額が生じる結果となった. 次年度は新たに開始する研究に向けての教科書購入, zoom等でのオンライン議論を円滑にするためデスクトップPCに接続するデュアルディスプレイの購入, 数値計算を行うためにMathematicaの導入といった物品費に使用したいと考えている. また引き続き, 国内外出張や招聘などの旅費にも使用していきたいと考えている.
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