研究課題/領域番号 |
22K13968
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西川 宜彦 東北大学, 情報科学研究科, 特任助教 (30914535)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ガラス転移 / モンテカルロシミュレーション |
研究実績の概要 |
2022年度は、当研究計画の要である格子ガラス模型において、基本的な性質であるガラス転移温度付近の動力学的性質について数値シミュレーションを用いて詳細に調べたほか、効率的なシミュレーションを行うためのプログラムの開発を行なった。 はじめに各粒子の移動距離に注目し、その分布の時間と温度依存性に注目した。十分高温での分布はどの時間でもガウス分布に従う。これは粒子の動力学が通常の拡散的であることを示唆する。ところが低温では短時間での移動距離の分布が非ガウス的になり、ガラス転移温度に近づくにつれて、ほとんど移動していない粒子と非常に長距離を移動する粒子が共存し、分布は非常に長い裾と鋭いピークを持つことがわかった。これは通常ガラス転移の研究で用いられる粒子模型で見られる分布と共通しているが、格子ガラス模型ではさらに強い非ガウス性を持つ。この非ガウス性を理解するため、ガラス転移温度付近での動力学をさらに詳細に調べたところ、複数の粒子から構成されるクラスターが現れ、それが実空間中を非常に速く移動していることがわかった。このクラスターを構成する粒子は時間に対して一定ではなく、多くの粒子に跨がりながら位置を変える準粒子とも言える性質を持ち、この準粒子が粒子の運動を促進することで上記の非常に強い非ガウス性が現れることがわかった。さらに長時間領域では、粒子の協同運動による構造緩和が起こり、その動的な長さスケールが低温に向かって強く増大、また緩和時間が長さスケールに対して指数的に依存することがわかった。動的な長さスケールに加えて、熱力学的な長さスケールの推定も行なったところ、動的な長さスケールの増大と強い相関をもつことが明らかになった。これは熱力学が低温での遅い動力学をコントロールすることを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに得られた研究結果について、現在論文を執筆しているとともに、複数の会議において発表する予定である。また当初計画していなかったものの新たな課題として、格子ガラス模型にランダムネスを導入した場合の動力学、熱力学的な性質の研究を開始した。また当初の目的である、熱力学的相関長の測定へ向けた大規模計算の準備段階として、測定に必要なデータの数値計算も開始している。また、シミュレーションで得られたデータが持つ、物理的に重要な空間的情報の可視化手法を考案することができた。以上から、概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
去年度の研究進捗を踏まえて、今年度は以下の2点について特に重点的に研究を行う予定である。 i) ガラスにおける熱力学的相関長の測定には、特殊な境界条件の下での平衡状態のシミュレーションを行なう必要があるが、そこでは平衡状態への非常に緩和が予想される。そこで、まず遅い緩和の問題を解決する方法としていくつかのモンテカルロアルゴリズムを検討する。具体的には拡張アンサンブル法を用いて、特に交換モンテカルロ法、マルチカノニカル法などを検討する。 ii) 格子ガラス模型の動力学の研究から得られた動的な相関長、熱力学的な相関長と緩和時間、さらには配置エントロピーとの詳細な関係について検討する。特に理論的に予想されている各物理量の関係がどの程度成立するかに着目する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は当初計算機を購入する予定であったが、結果として共同利用のスーパーコンピュータの使用(その他としての86600円に相当)で十分な研究成果が得られ計算機の購入を見送ったために次年度使用額が生じた。 今年度は、国際共同研究のために海外への滞在を行なうほか、国際会議への参加を複数計画しており、助成金をこれらの滞在、出張費用として用いるほか、小型の計算機や研究に用いる機材の購入に使用する予定である。
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