研究課題/領域番号 |
22K13973
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
白井 伸宙 三重大学, 情報教育・研究機構, 助教 (20772081)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高分子ゲル / 負のエネルギー弾性 / 自己回避ウォーク / 統計力学 / 厳密数え上げ |
研究実績の概要 |
高分子ゲルで発見された負のエネルギー弾性のミクロな起源を探るため、高分子ゲルを構成する高分子鎖1本を取り出して相互作用自己回避ウォークを用いたモデル化を行い、解析を行った。解析には、厳密数え上げを用い、計算機により条件を満たす自己回避ウォークを数え上げることで各エネルギー毎の状態数を求めた。得られた状態数をもとに統計力学を用いて1本鎖の硬さを表すスティフネスを計算した。計算結果から、負のエネルギー弾性を示した高分子ゲルの実験結果を定性的に説明する結果が得られ、負のエネルギー弾性の起源が高分子鎖と溶媒分子の間の引力相互作用であることが明らかになった。 モデルの引力相互作用を変化させてみると、負のエネルギー弾性の効果が大きくなって弾性率が下がる(柔らかくなる) と同時に、高分子鎖と溶媒分子の引力相互作用によって自己回避ウォークが局所的に伸びた構造を取ることが観察された。これは局所的に曲がりにくく「硬い」構造を取ることが全体として柔らかい状態を作り出していることを意味している。 さらに、一部の条件の自己回避ウォークについて状態数の数列の一般項を求めることに成功した。これにより、得られた結果は有限ステップの自己回避ウォークだけではなく、連続極限を取った場合でも有効であり、一般的に成り立つことが強く示唆された。 研究結果をまとめた原著論文はPhysical Review Letters誌からオープンアクセスで掲載された。本論文の出版に合わせてプレスリリースを行い、インターネットメディアや新聞で取り上げられ、研究成果を広く周知することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出版された原著論文において、本研究課題の研究目的である「自己回避ウォークを用いて負のエネルギー弾性を含む高分子ゲルに関する新規物性を統一的に理解」のうち、「負のエネルギー弾性の理解」の部分を大きく進めることができたため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度までに得られた研究実績では、負のエネルギー弾性の起源について理解することができた。今後の研究の推進方策として、1. 負のエネルギー弾性を示すモデルの最小構成要素を探る、2. 自己回避ウォークの曲りやすさに関するエネルギー項を追加したモデルを用いて負のエネルギー弾性の効果が高分子鎖の局所的な特徴によってどのように変化するかを探る、という2つの方向性がある。1では理論的興味によりシンプルな統計力学モデルを探求し、2では現実の幅広い高分子ゲルを理解するためにより複雑な統計力学モデルを探求する。この2つの方向性について研究を進めることで、既に得られている結果の一般性を示しつつ、「高分子ゲルの統計力学」の構築に向けた次の一歩を進めることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:計算機の設置予定であった部屋が改修工事により使用できなくなったため。 研究計画を作成した令和3年9月の時点では、報告者は自身が所属するセンターのサーバ室に計算機を設置する予定だった。しかし、同センターの改修工事の計画が令和4年4月に始まり、同年12月に認められた。これに伴い、改修工事を実施する令和5年7月から令和6年3月までの間はサーバ室は使用できず、また改修工事に先立って物品を移動させる必要が出てきた。令和4年度中には計算機の別の設置場所を確保できず、計算機を安定して稼働させる計画も立たなかったため、予定していた計算機パーツの購入時期を部分的に令和5年度に遅らせることとなった。 使用計画: 令和5年4月現在、改修工事の際に一時的に移転する部屋が確保でき、一定数の計算機を安定して稼働させられる目処がたったため、令和4年度に計画していた計算機の構築のうち延期していた残りを実施する予定である。また、研究成果を国内・国際学会で報告するための旅費にも予算を使用する予定である。
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