研究課題/領域番号 |
22K13975
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊丹 將人 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (00779184)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 統計物理学 / 大偏差理論 / 特異摂動法 / ランジュバン方程式 |
研究実績の概要 |
平衡系でのランジュバン方程式の粗視化について考えるための例題として、周期ポテンシャル中の1次元ブラウン運動に関する研究を行った。ポテンシャルを乗り越える典型的な時間よりも十分長い時間スケールで運動を観察すると、ポテンシャルの寄与はならされ、ブラウン運動は有効拡散係数をもつ単純なランジュバン方程式で記述されると期待できる。既存の粗視化手法である特異摂動法を用いることで、実際にそのような粗視化されたランジュバン方程式を導くことができ、有効拡散係数の表式も得られる。長時間変位に着目すると、元の方程式と粗視化されたランジュバン方程式で、長時間変位の1次キュムラントと2次キュムラントは一致していることが確かめられた。今回用いたモデルは単純なモデルであり、長時間変位の高次キュムラントも解析的に計算することができるため、4次キュムラントも具体的に計算した結果、元のモデルでは一般的には0にならないことが示せる一方で、粗視化したランジュバン方程式では必ず0になることが示せた。つまり、非常に単純なモデルでも、標準的な手法で粗視化を行うと、長時間での統計的な振る舞いが元と異なることを発見した。そこで、長時間での統計的な振る舞いが一致する粗視化されたランジュバン方程式の形を予想し、この予想が正しければ粗視化されたランジュバン方程式の応答を測定をするだけで、長時間平均速度の大偏差関数を求めることができることを明らかにした。 1次元1粒子の非平衡系において、長時間平均量の統計性が素朴な中心極限定理に従わないことがあることを発見し、様々な状況下でゆらぎの具体的な表式を導いた。また、多粒子系の数値計算を行い、1粒子系と同様な結果は特殊な状況下でのみ得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粗視化した系での時間発展方程式を求める問題は、平衡状態の1次元1粒子系でも非常に難しいということが明らかになり、当初予定していたよりも研究は進まなかった。しかし、新しい予想を1つ提案することができ、大偏差関数の測定可能性に関して予想外の進展があった。これらを総合的に鑑みて、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新しく提案した予想が正しいことを数値的に検証する。また、セミマクロな系を記述する粗視化された時間発展方程式として、ゆらぐ流体方程式の理解を深めることも重要だと考えるようになったので、ゆらぐ流体方程式がどのようなスケールから正しく現象を記述できるようになるのかという問題にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定通りに研究が進まず、主に解析計算による研究を行ったことで、今年度は高性能な計算機を購入する必要がなかったためである。計算機の性能は日に日に向上するので、今後必要になったタイミングで最もコストパフォーマンスの良い計算機を購入する予定である。
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