研究課題/領域番号 |
22K13976
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 淳一 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60732211)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Rigged Hilbert空間 / 量子力学 / 非エルミート / PT対称性 / スペクトル定理 |
研究実績の概要 |
量子力学を記述する空間はHilbert空間とされる。しかし、Hilbert空間には(I)非有界作用素がHilbert空間全体を定義域にできない、(II) 位置や運動量の固有関数であるデルタ関数や平面波がHilbert空間に属さないという問題がある。これを解決するようにHilbert空間を拡張した空間がRigged Hilbert空間と呼ばれる三つ組空間である。これは、量子力学を記述するには少なくとも三つの空間が必要ということを意味する。それでは、非エルミート量子系や凝縮系など従来のRigged Hilbert空間に基づく量子力学を超えた量子論の基礎空間はなんであろうか。このプロジェクトではこのような問に答えるべく、様々な状況における量子論の基礎空間を構築する。 本年度は非エルミート量子系の一つである準エルミート量子系を扱った。準エルミート量子系とは、正定値計量のもとエルミートとなる物理系である。この系は適切な計量を入れることでエルミートな量子系と同等となるため、その基礎空間はRigged Hilbert空間を拡張したものになる。本研究では、この系に対してその基礎空間である拡張されたRigged Hilbert空間を構築し、そのブラケット表記との対応関係とスペクトル定理を導いた。特に、PT対称性のある量子系を想定し、一般論との対応関係を書き下した。さらに、Swanson模型と呼ばれるPT対称な非エルミート振動子模型を対象とし、具体的に位置、運動量、ハミルトニアンに対するスペクトル定理を書き下した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は非エルミート量子力学の一つである準エルミート系に対してその基礎空間であるRigged Hilbert空間を構築し、そのブラケット表記との対応関係とスペクトル定理を導いた。これは計画において想定した非エルミート量子系の大きな課題の一つである。この結果は、論文として出版されており、国内外の会議でも報告済みである。これらより、想定した計画通りにプロジェクトは進捗をしたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は凝縮系を始めとする場の量子論や量子統計力学を想定し、その基礎空間の構築を試みる。その第一歩として、量子多体系対応する三つ組空間を構築する。本年度は第一量子化による多体系の取り扱いを想定し三つ組み空間を構成する。単純なテンソル積であれば問題なく多重ヒルベルト空間に対するRigged Hilbert空間を構成できるであろう。ボソン・フェルミオンの量子性を考慮する場合、さらに対称化・反対称化を行う必要がある。本研究では、この対称化・反対称化を射影演算子法で行う。その後、一般的にスペクトル定理を証明し、具体例でもスペクトル定理を示す。多体Rigged Hilbert空間が構築できた次は、量子統計について三つ組み空間を構成する予定である。量子統計力学を記述する空間はHilbert空間でなくLiouville空間である。そのため、三つ組みへと拡張した空間はRigged Liouville空間となる。年度の後半では多体系で得た知見をもとに、射影演算子法を用いてRigged Liouville空間を構成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰り越しが生じた理由は業務の都合上、学会の旅程を短く取ったためである。次年度は想定していたよりも国際会議が多くなる見込みであり、繰越金額はその参加費として使用する。具体的には国際会議International Council for Industrial and Applied Mathematics (ICIAM)と28th International Conference on Statistical Physics (Statphys28)の参加費が想定外の支出となる。一方、物理学会は春季大会のonline化を継続しており、その分の参加費・旅費分は必要でなくなった。この分を国際会議の参加費にあてる。
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