研究課題/領域番号 |
22K13978
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 裕義 東京大学, 物性研究所, 助教 (10931884)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 非平衡揺らぎ / 非平衡相転移 / 大規模分子動力学シミュレーション / 南部・ゴールドストーンモード |
研究実績の概要 |
1. 非平衡流体における異常揺らぎ 本研究課題の目標は非平衡定常状態における秩序相が示す普遍的性質をそこで見られる非平衡揺らぎに注目しながら解明することにある。本年度は秩序相の解析に進む前の準備的段階として、非平衡条件下にある単純流体の一様相で見られる異常揺らぎを大規模分子動力学シミュレーションを用いて解析した。揺らぐ流体力学により長距離空間相関が現れることが知られている。本研究では、その理論的に導かれる長距離空間相関をハミルトン粒子系から第一原理的に観測することに成功した。本シミュレーションから、せん断下/熱伝導下で観測される長距離空間相関は系のサイズが小さい時には発達しないことが明らかとなった。言い換えれば、小さい非平衡系の揺らぎはほとんど平衡系と区別できないことになる。非平衡揺らぎが中心的な役割と果たす相転移現象や秩序相の特異な振る舞いはこの有限サイズ効果の影響を強く受けることが示唆される。この有限サイズ性の起源は明らかとなっておらず、本研究でのシミュレーション結果をもとにその解明へと繋げたい。 2. 様々な流れの下で起こる連続対称性の自発的破れ 実施計画の通り、非平衡定常状態で起こる相転移現象を理論的に解析した。初年度はオーダーパラメータが流れによって直接流される非平衡系に注目し、流れの効果が秩序相に現れる南部・ゴールドストーン(NG)モードと呼ばれる揺らぎにどのような影響を与えるかを明らかとした。せん断流と伸長流という揺らぎが無限に引き延ばされていくタイプの流れはNGモードを強く抑制することが分かった。一方で、楕円回転流のような揺らぎの引き伸ばしが起こらないタイプの流れではNGモードの振る舞いは平衡状態と変わらないことも分かった。この解析結果は非平衡相転移の解析において、揺らぎの無限の引き伸ばしが重要なキーワードとなることを示唆しており、別の非平衡への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模分子動力学シミュレーションを使用して、一様相にある非平衡流体の揺らぎの様々な性質を解明することができた。また、様々な流れの下で起こる非平衡相転移現象を解析することに成功し、流れが非平衡相転移にどのような影響を与えるかを南部・ゴールドストーンモードの観点から明らかとすることに成功した。このように研究自体は順調に進めることができたが、論文としてまとめることが遅れてしまい、研究成果を外部に向けて公表することがあまりできなかった。この点で、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究では、非平衡揺らぎが有限サイズ効果により平衡揺らぎと区別できない二つの基礎的な例を大規模分子動力学シミュレーションにより発見した。来年度は非平衡揺らぎを超えてこのような有限サイズ効果を議論したい。最近、他の非平衡系においても、小さい非平衡系では非平衡性によって起こる特異な振る舞いが観測できず、平衡系と同じ振る舞いを示すという報告例があり、そのような現象との関連も興味深い。 また、無秩序相で見られる異常な非平衡揺らぎが中心的な役割を果たす非平衡相転移はほとんど知られていない。そのような例の構築も目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題を進めるためにノートパソコンを購入したが、当初想定していたよりも安価で良い性能のものを購入することができた。今年はコロナ明けということもあり様々な国際学会の実施が企画されている。次年度使用額はそれらの国際学会に参加する費用に充てる。
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