研究実績の概要 |
今年度は、昨年度に示した強く相互作用する量子多体系における界面を跨ぐ多体トンネル過程について応用的研究を行った。具体的には、斥力相互作用する2成分フェルミ気体やボース・フェルミ混合原子気体における2端子トンネル輸送を調べ、相互作用に誘起されたトンネル過程がそれぞれの系において重要な低エネルギー集団励起の輸送を引き起こすことを示した。前者では、斥力相互作用による強磁性相転移に付随したマグノン励起がスピントンネル輸送に大きな影響を与えることを示した。マグノントンネル輸送の兆候をつかむ方法としてスピンカレントノイズの測定提案も行った。一方、後者では、ボース粒子とフェルミ粒子の交換に関する対称性である超対称性の南部ゴールドストーンモードであるゴールドスティーノの効果が界面トンネル輸送に現れることを示し、現在論文を投稿中である。 また、中性子星と冷却原子気体を繋ぐ新たな方向性としてポーラロンの研究も行った。特に、中性子星内部において希薄中性子物質中の陽子は冷却原子気体で実現されるフェルミポーラロンとよく似ており、実際にフェルミポーラロンの実験で正当性が担保された理論を用いることで中性子物質中の陽子の性質を調べた。陽子のポーラロンエネルギーは原子核分野における重要テーマの一つである対称エネルギーに対応することを示し、陽子の有効質量が低密度領域で大きくなることを示した。陽子の質量増大は、1971年にBaym, Bethe, Pethickらに予言されていたが、今回冷却原子ポーラロンの理論により数値的にその事実を確認することができた。さらに、中性子物質の密度揺らぎを媒介とした誘導陽子間引力により、真空中では不安定なダイプロトンがバイポーラロンとして形成されることを予言した。
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