研究課題
本課題では、孤立多価イオンの脱励起ダイナミクスの実験観測を通じて、電子と原子核の間に働く超微細相互作用を研究することを目指し、研究を進めた。本実験研究の基幹装置は、理化学研究所の極低温静電型イオン蓄積リング(RIKEN Cryogenic electrostatic ion storage ring:RICE)である。本装置は、温度4ケルビンの電極に囲まれた磁場のない極高真空下(~ 10^-10 Pa)に、高速のイオンビームを長時間捕捉することが出来る。この特別な装置が提供する高レベルの孤立環境を利用して、超微細誘起遷移の研究を行うことが本課題の狙いである。実験のターゲットに設定した遷移は、Ne様多価イオンCl^7+の^1S_0 - ^3P_0である。2022-2023年度の2年間で、計2か月ほどのマシンタイムを確保し、以下の検討を行った。まず、既存の電子サイクロトロン共鳴型(ECR)イオン源のマシンスタディを行い、ジクロロメタンガスからCl^7+イオンビームを1マイクロアンペアオーダーで生成する実験条件を見出した。次に、本イオンビームを精密に軌道を調整しながらRICEに導入し、約1秒の長時間蓄積に成功した。最後に、新しく導入した極端紫外光検出器を用いて、イオンビームからの発光の蓄積時間依存性を測定した。これらは、RICEで行われた初めての多価イオン実験である。加えて、比較的弱い磁場で運転できる小型電子ビームイオントラップを用いた多価イオン分光実験を、関連研究として推進し、多くの成果を得た。例えば、高分解能可視分光器を用いた受動分光実験では、Ga様多価イオンNb10+の微細構造間遷移における超微細構造分裂を観測することに成功した。また、時間分解レーザー分光を用いる準安定状態寿命の新しい測定手法を開発・実証した。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件)
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