研究課題/領域番号 |
22K13994
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 博人 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80922947)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 音響プラズモン / 共鳴非弾性X線散乱 / 電荷秩序 |
研究実績の概要 |
本計画では最適ドープ銅酸化物高温超伝導体における電荷秩序・素励起を酸素K吸収端共鳴非弾性X線散乱(RIXS)によって包括的に観測することを目的としている。実施計画に添い、最適ドープBi2223のRIXS実験をTaiwan Photon Source 41Aにおいて実施した。 測定は移行運動量q=(H,0,L)方向について行なった。まず検出器角度を最大の150度で固定し、サンプル角度を回転させることで励起スペクトルを幅広い運動量移行で測定したところ、音響プラズモンを明瞭に観測することに成功した。プラズモン分散はq=(0,0,L)のゾーン中央でエネルギーが0になる分散関係を持ち、これは2次元電子系の集団電荷励起の特徴である。また、電荷秩序およびそれに伴うフォノン異常の観測にも成功した。次にRIXS測定をディテクター角度とサンプル角度を同時に調整することでLを固定した測定を行なった。予想とは異なり、Bi2223の音響プラズモンの分散関係はLにほとんど依存しないことがわかった。 また、超伝導ギャップ励起の同時観測を目指し、低エネルギー領域も詳細に調べた。その結果、低エネルギーの散乱強度は運動量の大きさによらずフォノン励起によって支配されていることがわかった。すなわち酸素K端で測定されるRIXS断面積においては超伝導ギャップ励起を含む低エネルギーの電子励起の強度は弱いことが判明した。以前の銅L吸収端におけるRIXS測定の結果は運動量が小さいところでは電子励起が支配的で、フォノン励起は運動量が大きいところでのみ顕著になる振る舞いを示していた。酸素K吸収端と銅L吸収端とでは散乱断面積が定性的に異なることを示しており、これは新たな知見と言える。 また可視光領域におけるスペクトロメータを購入し、実験室における可視光ラマン散乱装置の建設を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
観測を目指していた最適ドープBi2223における電荷の素励起のうち、音響プラズモン及び電荷秩序については計画通り明瞭に測定することができた。また酸素K端におけるRIXSのエネルギー分解能が計画時に想定していたよりも大幅に高く(22meV FWHM)、フォノンの分散関係を弾性散乱から明瞭に分離して観測することに成功した。さらに、電荷秩序に伴うフォノン異常の観測にも成功した。これは当初予期していなかった成果といえる。一方で超伝導ギャップ励起を含む連続励起はフォノン分散の存在により明瞭には観測できなかったが、この目的にはCu L端RIXS測定の方が適していることがわかった。データセットを完全にするため追加のマシンタイムをビームラインのコミッショニング時間から獲得することができ、当初想定よりも包括的な実験データを取得できる見込みが立った。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度には上記のq=(H,0,L)方向の成功に基づき、同じ測定条件で音響プラズモン分散のq=(H,H,L)方向における測定を完了することで、3次元的な分散関係の完全解明を行う。そのために必要な酸素K端のビームタイムを確保済みであり、5月上旬に酸素K端RIXS実験を予定している。この測定結果から銅酸化物におけるホールキャリアの散乱過程の異方性についての知見が得られると期待される。また、理論グループのモデル計算との比較から音響プラズモンの分散関係のL依存性が弱い原因を解明する予定である。現在論文を執筆中であり、データセットを完全に揃えた上で国際誌に投稿する。 また今回の実験で得られた知見を他の多層系銅酸化物高温超伝導体の研究に適用するため、2年間にわたる長期ビームタイム申請をビームライン責任者グループと共同で提出した。採用の見込みは高く、令和5年度後期から対象系を拡大して研究を継続することが可能となる予定である。 また光学部品の導入を進め、、実験室におけるラマン散乱装置建設を進展させる。
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