研究課題/領域番号 |
22K13999
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
栗原 綾佑 東京理科大学, 理工学部物理学科, 助教 (00795114)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超音波 / 励起子絶縁体 / 構造相転移 / ソフトモード / 電子-格子相互作用 / d電子系 |
研究実績の概要 |
Ta2NiSe5では,328 Kで生じる構造相転移の起源として励起子絶縁体転移が議論されている.通常,励起子絶縁体転移は電子相関が主導となりバンドが再構成されるが,Ta2NiSe5においては電子-格子相互作用の寄与も提案されており,その大きさの決定が重要な課題となっている.本研究では,電子-格子相互作用の大きさを決定するため,超音波を用いて構造相転移の弾性ソフトモードを観測し,そのソフトモードの解析から電子-格子相互作用の大きさを見積もることを目的とした. 本研究課題の予備実験として,TaをVに置換した試料を用いた超音波実験を遂行した.Vドープ系では,化学圧力の効果によりバンドギャップが変化するため,構造相転移が280 K程度まで低下する.これにより,ソフトモード弾性定数C55のソフト化を観測し,電子-格子相互作用の大きさ2500 Kを決定できた. さらに電子-格子相互作用を検証するため,本研究課題ではTa2NiSe5のソフトモード観測を遂行した.Vドープ系とは異なり構造相転移が328 Kと室温以上で生じるため,ソフトモード観測のためには高温側の超音波実験が必須の課題である.それゆえ,390 Kまでの実験環境の構築を目指した. 本課題で整備した高温超音波測定装置を用いてTa2NiSe5の超音波実験を遂行した結果,C55のソフトモード挙動を確認できた.他方,390 Kまでの測定ではソフトモード挙動をとらえきれず,より高温での超音波測定が必要であることが分かった.Ta2NiSe5における電子-格子相互作用を決定するためには,500 K程度までの超音波測定環境を整備しソフトモードを測定することが必要であると考えられ,次年度の課題となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の実施初年度に所属が変更になったため,それまで使用していた超音波計測システムが使用できなくなった.それゆえ,超音波測定に必要なエレクトロニクスの確保・実験用プローブ等の自作が必要であった.しかしながら昨今の物流の停滞により,特にエレクトロニクスの確保に遅れが生じ,必要な装置類がそろったのは2022年9月であったため,実験計画の遅れが生じた.現時点では390 K以下の超音波測定に必要な装置類はすべて整っており,これからの研究計画遂行が可能な状況である.
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今後の研究の推進方策 |
他方,2022年度の研究から,500 K程度までの超音波測定環境の構築が必要であることがわかった.超音波測定では,圧電素子を試料に接着するためのボンド選定が重要である.通常使用するボンドは390 K程度までの使用しかできず,高温測定用のボンド選定が必須となる.2022年度は,高温用ボンドの確保を行った.今後は,高温用ボンドを用いた超音波測定を遂行し,500 KまでのTa2NiSe5のソフトモード測定を推進する.これを学術論文としてまとめ,本研究課題の成果とすることを目指す. また最近の研究から,Ta2NiSe5では構造相転移のみならず,100 K程度の低温側でNMRスペクトルなどの異常が観測されその起源が議論となっている.そこで本研究では,高温高温超音波測定だけではなく,低温での超音波測定を遂行することにより,未解明の電子状態を追及する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨今の情勢を反映し,2022年度に開催された日本物理学会はオンライン大会が1回,現地開催が1回となった.それに伴い,申請時に見込んでいた旅費が少なくなったため,次年度使用額(B-A)が生じた.
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