研究課題/領域番号 |
22K14003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田財 里奈 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (10880023)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | カゴメ超伝導 / 後方散乱 / 電荷ループ秩序 / ウムクラップ散乱 / van hove singularity |
研究実績の概要 |
2019年のカゴメ超伝導体AV3Sb5の発見を契機に、遍歴フラストレーション電子系の研究への道が開かれた。本物質では、電子が結晶の対称性を自発的に破って非一様な分布を示すボンド秩序や、自発的な時間反転対称性の破れの秩序である電荷ループ秩序など、様々な量子相転移相が提案されているが、相図の微視的機構は未解明問題である。
研究代表者は、3つのサブラティスの自由度に由来した3つのvan hove singularity(vHS)に着目して、電子系の多体効果を考慮して、カゴメ超伝導体の相図の解析をおこなった。特に、低次元系での電子散乱の分類理論であるg-ologyを基に、vHS間の散乱チャンネルを分類し、ボンド秩序や電荷ループ秩序が、多体効果による有効ウムクラップ散乱や後方散乱の増大であるというミクロな発現機構を見出した。2023年度には、ナノスケールの電荷ループ秩序の理論の研究をおこなった。
また、本年度に京大グループの磁気トルクの実験により、130Kという高温で磁気秩序を伴わない時間反転対称性の破れが観測されたが、この理論的な機構は未解明問題であった。そこで研究代表者らは、実験グループと協力して、この時間反転対称性の破れの起源の解析をおこなった。その結果、高温での1方向性(1Q)電荷ループ秩序の発生と、面内磁場が誘起する電荷ループ秩序の一次相転移の機構を提唱した。また、小さな磁場によって電荷ループ秩序が強く増強されるという理論解析の結果を見出し、今後の実験の足掛かりとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、相図の微視的機構の構築を行う予定であったが、更に一歩進んで、電荷ループ秩序がもたらす輸送現象の研究までおこなった。これまでに、電場の2次に比例した電圧V(2ω)が面直磁場の向きによって符号を変えるという結果が、実験によって観測されているが、その微視的導出は不十分であった。代表者らは、電荷ループ秩序の秩序変数を考慮した非相反電気伝導度の解析を行うことで、面直磁場によって符号反転するV(2ω)の解析的な導出まで行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
最近、低温における非常に大きな熱ホール伝導度が観測され、カゴメ超伝導体の特異な時間反転対称性の破れの状態やとの関係の解明が望まれている。よって今後の研究方針としては、今年度とりかかった非相反伝導度の解明と共に、熱ホール伝導度の解析も行って、その研究成果を発表する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、Covid19による出張の減少に伴って、 先行する他の科研費(研究スタート支援:2022年3月までの予算であるが、2023年3月まで繰り越した)が余っていたため、2023年度は研究スタート支援の繰り越し分を優先的に使った為。次年度使用額は、研究会参加(6月イタリア・3月アメリカ)や大規模計算機購入(100万円ほど)として使用予定。
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