研究課題/領域番号 |
22K14014
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福山 達也 九州大学, 理学研究院, 特任助教 (20881551)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 非平衡物理学 / 生物物理学 / アクティブマター / 細胞集団運動 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
自然界にはエネルギーの出入りに伴い様々な流れが生じている。例えば電場をかけたときの電気泳動などがあるが、近年、そのようなポテンシャル勾配と’流れ’の考えを細胞集団運動へ広げようとする試みがある。研究代表者は細胞間を伝搬するシグナルと細胞の運動に着目し、シグナル伝搬中に密度変化を伴って逆向きの集団運動が駆動されることを実験・理論の両方から明らかにした。しかし、生体内では様々な形状をもった組織があり、曲率が組織形成や運動自体にどのように影響するのか明らかになっていなかった。本研究では曲率を持った基板上でシグナル伝搬や細胞集団運動がどのように影響を受けるのか、そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。 今年度、実験においては3次元的に細胞集団運動を観察を行った。前年度に遺伝子組み換えによって細胞質・細胞核が蛍光を発するようにしたMDCK上皮細胞をアクリルアミドゲル上で培養し、細胞集団運動を観察した。アクリルアミドの表面の凹凸にはビーズを用いて、山状の隆起パターンを作成した。今後はこの山状の基盤での細胞集団運動の結果をもとに、特長的な曲率依存的な細胞集団運動があらわれる凹凸パターンをもつ基盤を設計、光微細加工技術で作成する。 実験と並行して、曲面上を運動する粒子のシミュレーションモデルの改良を行った。前年度に曲面上における粒子の座標、速度、粒子間の距離は測地線方程式を用いて計算し、凹凸を持った面にそって粒子が動く系を考案した。しかし前年度は一方向にのみ曲率を持つ基盤上での細胞集団運動のシミュレーションに限定させていた。今年度はそれを2方向に曲率を持つ、より一般的な曲面で計算できるモデルへ改良した。シミュレーションの結果、山状の隆起パターン付近で自発的な回転運動が見られ、曲率と回転運動の関係が今後明らかになると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は細胞集団運動と曲率の関係を調べ、それを実験・理論の両面から明らかにしていくことである。実験、理論の両方において進捗がありさらなる結果が得られることが期待できたため今回の評価にした。 実験においては、すでに遺伝子組み換えを完了している細胞を用いて3次元的な細胞集団運動の観測を行った。当初コラーゲンゲルでの観測を行っていたが、凹凸をもったゲル基盤作成や細胞培養の観点からアクリルアミドゲルへ変更した。アクリルアミドゲルでは固さや微細加工による凹凸パターン作成が容易であり、今年度はアクリルアミドゲルで隆起パターンを作成し、ゲル表面上で細胞を48時間以上の培養・観察を行うことに成功した。現在はこの観察結果をもとに平面では見られない細胞集団運動があらわれる凹凸パターンを模索している。 理論の方では数値シミュレーションのモデル改良を行った。前年度までのモデルでは曲率が一方向に制限されていたが、モデルの根幹部分にあたる測地線方程式を解きなおし、2方向に曲率がある様々な局面に対応できるようにした。これにより、曲面の高さを関数の形で与えればどのような局面でも数値シミュレーションを行えるようになり、自由な曲率を設定することが可能になった。今年度はまず、一つの山状の隆起パターンを設計し、細胞に見立てた粒子集団を運動させた。その結果、山の周辺で回転運動が起き、パラメータによって回転運動の様子が変わった。今後、曲面の曲率やパラメータと回転運動の関係を調べることで曲率が集団運動に与える影響が明らかになる。また様々な曲率の基盤を作成・適用できるので数値シミュレーションで試行した結果は実験の基盤作成にも応用できる。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度では主に曲面上での細胞集団運動を観察の準備、2年度目においてはその観察することができた。本研究の目的である曲率と細胞集団運動の関係を明らかにすること、そして3次元的な凹凸を持つ基盤による細胞集団運動の制御を成し遂げるのに重要な進捗を得られた。 実験においては曲率を持つゲル基盤の作成と細胞培養の条件は検討済みであり、今後は様々な凹凸パターンを作成し、特徴的な細胞集団運動が見られる曲率の模索とそれらの知見から特定の組織形状を見られるパターン設計が次の目標である。後述する数値シミュレーションの知見も集まってきており、実験における条件検討も加速されることが期待される。 数値シミュレーションにおいては、先述の通り一方向のみの曲率をもった基盤から2方向の曲率をもつ基盤へモデルの適用範囲を拡張できた。現時点では一つの山状の隆起パターンと回転運動を確認できている。この数値シミュレーション上で様々な凹凸パターンを設計するとともに、実験結果との比較を行う。実験で見られている細胞集団運動から理論モデルの相互作用やパラメータ調整を行う。さらにその結果を実験の基盤作成へと実験と理論の知見活用を加速し、双方の理解を推し進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由のうち、おもなものは実験で使用する消耗品が予定より少額で済んだことにある。実験計画で使用する薬品などが当初計画したものより安価なものに変更になり、結果として実験関連の支出が大きく減ったことで次年度にまわす金額が生じた。また現状の結果を論文化するに至らなかったため、出版費関連の費用も同様に次年度に持ち越す形となった。 次年度では実験での消耗品に加え、学会発表および論文出版に関する費用を本研究費から支出予定である。最終年度でもあるため、結果の発表が重要であり学会発表と論文出版にむけた実験や議論のための出張への支出が多くなることが予想される。
|