研究課題/領域番号 |
22K14019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 隆太郎 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (70870476)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高強度レーザー / 相対論プラズマ / 高エネルギー電子 / 半導体製造技術 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、集光強度が10^{20-22} W/cm^2 の高強度レーザーと物質との相互作用において、ターゲットとしてナノ工学技術・電子線リソグラフィー技術によるサブマイクロメートルオーダの微細構造を付与することで比表面積を大きくした物質(構造性媒質)を用いることで、圧力が数十億気圧の高エネルギー密度プラズマが生成するとともに、この過程で現出するTV/mオーダの強電場と kTオーダの強磁場を制御することでプラズマに自己組織化機能を発現できるとの着想に基づき、微細構造を適切に選択することで、慣性時間を超えてレーザー生成相対論プラズマを長時間“閉じ込める”方法論を開拓することを目的とする。 2023年度は、(1)相対論的電磁粒子コードを用いて高強度レーザーと構造性媒質(ロッド集合体)との相互作用を模擬する2次元粒子シミュレーションを実施し、プラズマ中に準定常磁場構造を導入するための適切なターゲットデザインを見いだした。その上で、(2)シミュレーション結果に基づいてターゲットの設計・作製を行った。(1)(2)の成果を踏まえ、(3)作製したターゲット、および、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた高強度レーザーの照射実験(京都大学化学研究所T^6レーザー)に着手した。レーザー照射実験では、生成する相対論プラズマの電子温度の空間分布特性に関するデータの蓄積に成功し、シミュレーション結果と同様の傾向を示す結果である点と、ターゲットの微細構造が生成プラズマのエネルギー状態と異方性に大きな影響を及ぼす点を確認した。これらの一連の結果により、2024年度の研究においてより詳細な物理量(イオンエネルギー、イオン種、生成磁場強度)を測定するための方向性を見いだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、高強度レーザーと構造性媒質との相互作用に関する理論・シミュレーション研究、および、構造性媒質を用いたレーザー照射実験を実施し、以下の結果を得た。 (1)理論・シミュレーション:研究代表者らが開発・整備した衝突緩和過程を含む相対論的電磁粒子コードを用いて、高強度レーザーと構造性媒質との相互作用を模擬する2次元大規模シミュレーションを実施した。高強度レーザーは、研究代表者らが共同研究を実施している京都大学化学研究所のT^6レーザーを想定(最大集光強度:10^{19-20} W/cm^2・パルス幅:40 フェムト秒)した。その結果、ターゲットのマイクロメートルオーダの微細構造を変化させることで、生成プラズマ中にキロテスラオーダの強磁場が形成され、磁場構造及び磁場強度がパルス幅を2桁以上上回る長時間にわたって保持されることを明らかにした。 (2)ターゲット作製:(1)で見いだしたパラメータ領域をもとに、最新の半導体製造技術を駆使して、直径がサブマイクロメートルで高さが数10マイクロメートルの円柱状ケイ素がマイクロメートル間隔で多数配列した物質(シリコンロッド集合体)を精緻に作製する技術を確立した。 (3)レーザー照射実験:(2)で作製したロッド集合体、および、ロッドのアスペクト比(高さ/直径)を極限まで大きくした物質との位置づけで、炭素ナノチューブ(CNT)を用いて、これらに高強度レーザーを照射する実験を実施した。実験では、ターゲットの軸方向とレーザーの偏光方向・照射方向に関する配位を変えたものを複数パターンに分けて詳細に調べ、それぞれのケースにおいて電子のエネルギーを2方向で同時計測した。その結果、電子エネルギーの空間分布特性が、レーザーの照射方向・偏光方向に依らず、ターゲットの方向性を強く反映することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度までの成果を踏まえ、最終年度である2024年度は、レーザー生成高エネルギー密度プラズマの状態に関するより詳細な物理量(電子エネルギー・イオンエネルギー・生成磁場強度)の計測を試みる。加えて、水素・ホウ素熱核融合反応の実現に向けて、ロッド集合体に水素・ホウ素の導入手法を検討し、これに高強度レーザーを照射する実験を実施する。具体的には、現実により近い設定を模擬するため、シミュレーションコードのイオン化ルーチンを整備して、イオン化・衝突緩和過程を取り入れた粒子シミュレーションを実施し、実験結果との比較・検討を行う。ターゲット作製では、水素・ホウ素の導入を目的として、適したターゲットを設計・作製する。実験では、プラズマミラーを導入することで、構造性媒質とレーザーとの相互作用をより理想的な形で実現させるとともに、シャドウグラフ等を用いたプラズマの密度計測・ファラデー回転を利用した磁場強度計測を試みる。さらに、CR-39などを導入したイオン種の同定なども検討し、水素・ホウ素熱核融合反応の有無を調べる。 これらにより、本研究課題の目標である、「高強度磁場に支配される高エネルギー密度プラズマによる陽子・ホウ素熱核融合」の実現の有無に対する評価を行い、照射するレーザー強度に対して生成されるプラズマの温度・密度・閉じ込め時間に関するスケーリング則の構築を試みる。さらに、核融合としての本手法の有用性と将来性の検証・検討を行う。
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