研究課題/領域番号 |
22K14025
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
後藤 勇樹 核融合科学研究所, 研究部, 助教 (00878944)
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研究期間 (年度) |
2022-12-19 – 2028-03-31
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キーワード | 電子サイクロトロン放射 / Abraham-Lorentz方程式 / Friedrichsモデル |
研究実績の概要 |
本研究ではサイクロトロン運動する電子とその放射場を理論的に解析し、ヘリカル波面を持つ電子サイクロトロン放射の発生とその応用を進めることである。 電子サイクロトロン運動及び電子サイクロトロン放射は、減衰過程を含む古典的な現象である。1800年代後半から1900年代初頭にかけ主にAbrahamとLorentzにより、古典的な放射減衰を取り扱うためAbraham-Lorentz方程式(AL方程式)が提案された。この方程式は加速度運動する荷電粒子と粒子自体が放射する場との相互作用による反作用を含めた方程式となっている。しかしこのAL方程式は、粒子が時間と共に指数関数的に成長する暴走解を導く問題を含んでいる。そこで今年度は、サイクロトロン運動する電子とその放射場を相互作用まで含めた全系の力学の問題として論じ、自己無頓着に解析することを試みた。 その結果、我々はこのAL方程式に内在する問題を完全に回避する方法を見出した。具体的には、粒子と外部電磁場間の相互作用を記述する古典的ハミルトニアンが双線形型のハミルトニアンに近似できる場合(つまり古典的 Friedrichsモデル) 、量子力学の場合と同様に双線形ハミルトニアンに対するFriedrichsの厳密解との類推により、このモデルを厳密に解くことが可能ということを示した。ここで古典的Friedrichsモデルとは古典的Bogoliubov変換で対角化可能な双線形型をしたハミルトニアンであり、量子系で励起準位からの崩壊による光の自然放出の力学的根拠を明らかにしたFriedrichsモデルの古典版である。この取り扱いではAL方程式で古典的放射減衰を記述した場合に生じる暴走解が現れない物理的に有意義な解が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Friedrichsモデルを古典化したことで、電子サイクロトロン運動及び電子サイクロトロン放射を減衰過程も含めて厳密に解くことができた。そのため電子サイクロトロン放射の渦性(ヘリカル波面を持つ波)について解析を行う準備が概ね整っているためである。一方で、なぜAL方程式は本質的に暴走解を導くのか、という疑問も派生した。令和6年度はAL方程式の導出まで立ち戻り、この暴走解が生じる根本的な原因も明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は円筒境界内(導波管)で電子をサイクロトロン運動させ、電子サイクロトロン放射の渦性(ヘリカル波面を持つ波)について解析を行う。円筒導波管でこの議論を行うと、波の増幅を誘発することが可能となる。これは電子がその導波管が持つ固有な遮断周波数近傍でサイクロトロン運動しているときに生じる異常減衰である(または電子サイクロトロン放射の異常増大)。この異常減衰は量子力学でのエネルギー帯端に現れる状態密度の発散、つまりVan Hove特異性から生じる。今後はこの古典的なVan Hove 特異性も含めて理論的に論じ、ヘリカル波面を持つ電子サイクロトロン放射の発生とその応用への向けた検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題をより理論的な側面から実行するため、令和5年度に予定していたの物品の購入を見直し、共同研究者や学会での議論のための旅費を充実させた。今年度執行できなかった予算は次年度に繰り越し、学会への旅費ならびに滞在費に充てる。
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