• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

CP対称性の破れを探る重い原子核の精密計算

研究課題

研究課題/領域番号 22K14031
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

柳瀬 宏太  国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (50844817)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード原子核構造 / CP対称性の破れ / 電気双極子モーメント / 原子核シッフモーメント / 原子核殻模型 / 八重極変形
研究実績の概要

ジルコニウム(Zr)同位体およびその周辺の原子核では、異なる四重極変形状態が低エネルギーで複数現れる現象(変形共存)に加えて、顕著な八重極相関が観測されている。本研究では、準粒子真空殻模型を用いてKr, Sr, Zr, Mo, Ruの同位体の系統的な計算を行い、これらの原子核を統一的に記述する有効相互作用を構築した。本研究の意義として、これら多様な原子核構造とそのメカニズムを明らかにすることに加えて、標準模型を超える基本理論への貢献が期待される。
例えば、四重極変形の様子はニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の原子核行列要素に大きく影響することが示唆されているほか、八重極相関はシッフモーメントの増幅を起こすことが期待されている。そのため、原子核の変形・振動状態を微視的に記述することにより、これらの物理量を精密に予言することが可能となる。
四重極変形共存については、ZrやSrでは球形核から変形核への明瞭な転移がみられるのに対して、Kr, Mo, Ruでは比較的緩やかな転移が起こる。殻模型計算の結果、ZrやSrでは変形度の大きく異なる状態が共存しており、それらが入れ替わることによって転移が起こる一方、MoやRuでは変形度の近い状態が強く混ざり合って共存することで、緩やかな転移が起こることを示した。
これらの描像は低エネルギー励起状態の励起エネルギーや、状態間の電磁遷移強度に反映される。近年これらの量を測定する実験研究も進展しており、計算結果を用いた解析により変形共存についての具体的な理解が進んでいる。
本研究では、中性子過剰なバリウム同位体など別の領域の原子核についても系統的な殻模型計算を行っており、八重極相関を記述する有効相互作用の構築を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Zr同位体の計算については、殻模型計算の範囲を当初予定していたZrだけでなく、MoやRuなど周辺の原子核にまで広げた。これにより有効相互作用の構築には計画以上の時間がかかったが、その結果、元素ごとに特徴の異なる変形共存状態を統一的に記述することが可能となった。この枠組みを用いて、近年得られたガンマ線核分光の実験結果の解析を進めている。これまでに計算を行った原子核には、96Zr,96Mo,100Mo,100Ruといったニュートリノ二重ベータ崩壊が期待される核種が含まれており、原子核行列要素の精密計算に向けた準備が整ったといえる。
また、八重極相関についてもZr同位体などで現れる特徴的なネガティブパリティ状態の励起エネルギーおよび基底状態への電磁遷移確率の実験値を再現しており、八重極相関状態の微視的な記述が得られている。
一方、CP対称性の破れに関係する原子核シッフモーメントについては、シッフモーメントの増幅が期待されるバリウム同位体についての統一的な有効相互作用の構築にはまだ至っていない。現時点では、八重極相関を増幅する核子間の八重極相互作用を導入し、その強度を調整することでネガティブパリティ状態の励起エネルギーを系統的に下げることが示されている。

今後の研究の推進方策

Zr周辺核については、これまでに得られた四重極変形共存や八重極相関状態について、詳細な解析を行う。これには波動関数を用いた微視的な解析に加えて、原子核の巨視的な描像を理解するための解析も含まれている。これにより、さまざまな四重極変形状態における微視的・巨視的な構造を明らかにすることで、四重極変形共存が起こるメカニズムの解明に役立つと期待される。
また、得られた波動関数を持ちいて、96Zrと100Moについてニュートリノ二重ベータ崩壊の原子核行列要素を評価する。別の核種において、核行列要素は変形状態の詳細に強く依存することが示されており、核行列要素の精密な評価には変形状態についての精密な記述が必要となる。本研究で扱うZrおよびMoのケースにおいても、ガンマ線核分光の実験結果を用いた変形状態についての詳細な解析のうえ、変形状態と核行列要素との関係を議論する。
Ba周辺核については、まず有効相互作用の改良を進め、シッフモーメントの精密評価を目指す。Zr周辺核の計算により、変形度や変形共存の詳細は、一粒子状態や一粒子状態の動的なふるまいを決めるモノポール相互作用の影響を強く受けることが分かっている。Ba周辺核では、これに加えて付加的な八重極相互作用を導入することで、八重極相関状態を統一的に記述する有効相互作用を構築する。そのうえで、準粒子真空殻模型計算により、基底状態とシッフモーメントの増幅に寄与するパリティ・ダブレット状態の波動関数を求め、シッフモーメントを評価する。

次年度使用額が生じた理由

当該年度での異動に伴う所属機関での新たな研究予算により、旅費等の経費を支出したため、その費用が次年度使用額となった。また、富岳等スーパーコンピュータを用いた研究課題への採択により、当該年度では有償利用として必要な経費も不要であった。使用計画としては、スーパーコンピュータ等の計算機の利用費のほか、必要に応じてネットワークHDDの導入を検討する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)

  • [国際共同研究] Physical Research Laboratory(インド)

    • 国名
      インド
    • 外国機関名
      Physical Research Laboratory
  • [雑誌論文] Correlations between nuclear Schiff moment and electromagnetic measurements2023

    • 著者名/発表者名
      Yanase K.、Shimizu N.、Higashiyama K.、Yoshinaga N.
    • 雑誌名

      Physics Letters B

      巻: 841 ページ: 137897

    • DOI

      10.1016/j.physletb.2023.137897

  • [雑誌論文] Revisiting theoretical analysis of the electric dipole moment of <mml:math xmlns:mml="http://www.w3.org/1998/Math/MathML"><mml:mmultiscripts><mml:mi>Xe</mml:mi><mml:mprescripts /><mml:none /><mml:mn>129</mml:mn></mml:mmultiscripts></mml:math>2023

    • 著者名/発表者名
      Sahoo B. K.、Yamanaka N.、Yanase K.
    • 雑誌名

      Physical Review A

      巻: 108 ページ: 042811

    • DOI

      10.1103/PhysRevA.108.042811

  • [学会発表] Shell-model study for describing neutron-rich medium-heavy & heavy nuclei2024

    • 著者名/発表者名
      K. Yanase
    • 学会等名
      RIBF workshop: ADRIB2024
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Shell-model study for describing octupole correlation towards revealing CP violation beyond the standard model2024

    • 著者名/発表者名
      K. Yanase
    • 学会等名
      The workshop on frontier nuclear studies with gamma-ray spectrometer arrays (gamma24)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 原子核殻模型による八重極相関状態の記述2023

    • 著者名/発表者名
      柳瀬 宏太
    • 学会等名
      「富岳成果創出加速プログラム」合同シンポジウム

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi