研究課題/領域番号 |
22K14039
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
上村 尚平 奈良女子大学, STEAM・融合教育開発機構, 特任助教 (90805300)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 離散的対称性 / フレーバー / CP対称性 / 内部対称性 / 対称性の破れ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は素粒子論における離散的な対称性を、超弦理論などにより根源的な立場から統一的に理解することである。素粒子物理学には、仮説的なものや近似的なものも含めて、様々な離散対称性が現れる。物質場の対称性であるフレーバー対称性やCP対称性などがそうである。近年、超弦理論の有効理論に現れるモジュラー対称性が注目を集めている。モジュラー対称性とともにゲージ対称性やフレーバー対称性といった内部対称性が存在する場合、モジュラー変換は内部対称性に対する外部自己同型群を誘導する。自己同型群の構造は群に依存している。内部対称性と自己同型群を誘導する対称性の関係を調べることで離散対称性を統一的に理解できるのではないかと考えた。 CP対称性は現象論的に重要である。またCP対称性はモジュラー対称性に含まれている場合もある。現在の物質優勢な宇宙が成立するためにはCPの破れは必要であり、我々の宇宙では湯川結合を通じて破れていることが確認されいてる。一方ゲージセクターでのCPの破れは確認されていない。CP対称性と内部対称性が同時に存在する場合、CP変換も内部対称性に対して外部自己同型を誘導する。CP対称性と内部対称性の関係を調べることによって、内部対称性とそれ以外の対称性の関係を統一的に理解できる可能性があると考えた。そこで内部対称性に対する変換に着目し、CP対称性がどのようなクラスに分類されるのかを研究した。特に内部対称性とCPが無矛盾だが、物理的なCP対称性とみなせない場合(CP-like対称性)についてその意味を調べた。この場合、CP(-like)変換は物理的なCP対称性の破れの間の変換であることを明らかにした。また物理的なCP対称性が自発的な対称性の破れを通じてCP-likeになったり、その逆にCP-like対称性が物理的なCP対称性になったりする場合があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の欄で書いたとおり、本研究課題は素粒子論に現れる離散的な対称性について、よりフォーマルな立場から捉え直すことによって、統一的な理解を得ることである。そのためにまずCP対称性とゲージ対称性やフレーバー対称性などの内部対称性の関係を見つめ直し、CP対称性と内部対称性の群(以下、Gと表す)がどのような関係を持っているか、またそれを通じてCP対称性がどのように分類されるのかを調べた。これによって物理的なCP変換とそうでないCP-likeな変換の違いを明確にし、内部対称性がある場合のCP対称性の構造を明らかにした。特にGの既約表現に対するCPの作用から区別することが可能である。またそのような変換の元での不変性について物理的な意味を調べた。 しかしながら、この研究結果はまだ論文原稿の執筆段階であり、論文を発表し論文雑誌に投稿することができてない。その点では進捗はやや遅れているといえる。一方で、CP対称性と内部対称性について調べ直すことで、これまでの素粒子現象論や模型構築において余り顧みられることのなかった新しいタイプのCP(-like)不変性を持つ模型を提案できた。この結果は期待以上のものであるといえる。 以上から、一部は当初の計画よりも遅れているが、予想以上の成果が出ている部分もあるため、概ね順調に進展しているか、やや遅れている部分もあると判断した。総合して進捗状況の区分としては(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をより発展させる。CP対称性とフレーバー対称性の関係を調べることで今まで注目されなかったCP変換のクラスを見つけることができたので、このような対称性のある場合の現象論的な意味について調べる。例えばCPの破れはバリオジェネシスの必要条件だが、CP-like不変な理論でどうなるのかなど調べる。 一般に、連続で半単純なリー群に対してはCP対称性はよく定義されており、CP変換は一意に定まると言われている。しかし、そうでない場合(例えば複数の半単純リー群の直積など)について議論を拡張し、今まで考えられなかったCP対称性を実現できる可能性があるので、それを追求する。 また、この研究成果を踏まえて、より一般の離散対称性について、内部対称性との関係を明らかにする。超弦理論に含まれる離散対称性はCP対称性だけではない。CP対称性と内部対称性の関係について研究から得られた知見を元に、よりフォーマルな視点から研究する。フレーバー対称性などの内部対称性に対しては、超弦理論に現れるモジュラー対称性や双対性は、CP変換同様に外部自己同型を誘導するはずである。このとき誘導する写像により、CPに対して行ったようにモジュラー変換などの変換を特徴づけたり分類できたりする可能性があるので、それを追求する。弦理論の有効理論と内部対称性の関係を明らかにし、離散対称性の統一的な理解を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は研究計画段階よりも旅費の使用が減ったからである。計画時点では新型コロナウイルス感染症の影響もあるため、2022年度は国外の研究会に参加することはまだ難しい可能性もあると考え、国内での研究会のみへの参加を計画していた。しかし、国内の研究会も一部がオンライン化されたことなどもあり、想定よりも旅費を使用しなかった。また研究会の参加費だけではなく、主な共同研究者が近辺にいたこともあり、想定よりも旅費の使用が少なかった。そのため次年度使用額が生じた。 2023年度は新型コロナウイルス感染症による渡航制限等もほとんどが緩和された。一方で、物価が上昇し特に航空券の値段等が高額になりつつあるが、次年度使用額等を活用し積極的に、国外学会を含む学会への参加などの活発な研究活動を行う。
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