研究課題/領域番号 |
22K14051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武石 隆治 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (70933828)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 宇宙ガンマ線 / 大気チェレンコフ望遠鏡 |
研究実績の概要 |
10の18乗電子ボルト以上のエネルギーを持つ超高エネルギー宇宙線の生成には、活動銀河核やガンマ線バースト等の爆発的な天体現象が関連していると考えられているが、その起源は明らかになっていない。超高エネルギー宇宙線の到来方向が集中する領域が、スターバースト銀河M82の近傍に観測されており、M82は超高エネルギー宇宙線の起源の候補として注目を集めている。本研究では、スペイン・ラパルマで稼働中の解像型大気チェレンコフ望遠鏡(IACT)であるCherenkov Telescope Array (CTA)大口径望遠鏡(LST)およびMajor Atmospheric Gamma Imaging Cherenkov (MAGIC)望遠鏡を用いて、スターバースト銀河M82からのガンマ線を観測し、M82のホットスポットへの寄与を決定する。 2022年度では、まず初めにLST初号機(LST-1)の銀河系外観測における性能を実証するため、既知の活動銀河核であるMrk421の観測とデータ解析を行なった。ガンマ線事象の再構成の際に、天体の方向をあらかじめ仮定した解析手法を導入し、ガンマ線と宇宙線バックグラウンド事象の識別能力を向上させる工夫を行った。それにより、IACTとしては最小の、50GeV以下のエネルギー領域を含むガンマ線エネルギースペクトルを測定した。これはLST-1の銀河系外観測における初期成果であり、今後のスターバースト銀河の観測へ向けた試金石となった。得られた解析結果は2023年の日本物理学会で報告しており、宇宙線国際会議において成果を発表する予定である。 MAGIC望遠鏡では、数名の共同研究者と協力して観測計画をグループ内で提案し、数十時間分の観測データを取得した。今後も観測を継続し、データ解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度には、LSTの観測時間を増やすため、通常のIACTによる観測では用いられない、月のある夜間での観測と、天頂角60°以上にある天体の観測のための予備実験を行う予定だった。その一方で、LST-1は望遠鏡の性能実証から科学観測に移行する段階にあったため、ガンマ線のバックグラウンドである宇宙線事象を適切に除去するデータ解析手法を構築し、望遠鏡の性能を評価することが喫緊の課題となっていた。申請者は、これまでに月のない夜間・天頂角60°以内でのLST-1のデータ解析手法の構築と、望遠鏡性能実証に注力した。そのために本研究の当初の計画からやや遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に、LST-1によるMrk421等の活動銀河核の観測・データ解析結果をまとめ、LST-1の銀河系外天体の観測の初めの成果として学術論文にまとめる。並行して、LST-1とMAGICによるM82の観測を続ける。申請者の試算では、LST-1単体での観測は、M82のスペクトル解析に数百時間分の観測データが必要になり、稼働中のLST-1単体を用いるよりも、建設中のLST2-4を含めたアレイによる観測の方が効率が良い。そのため、まずはMAGICによるM82のデータ解析を進める。また、MAGICとLST-1の同時観測手法により、望遠鏡の感度を高めたデータ解析も行う予定である。それに加えて、LSTアレイでの観測に備え、月のある夜間での観測と、天頂角60°以上での観測手法の構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に、大気透過度測定用のCCDカメラを購入する予定だったが、LST-1の性能実証のためのデータ解析を先に進めたため、年度中のカメラの購入を行わず、次年度使用額が生じた。2022年度は、主に望遠鏡サイトへの旅費に助成金を使用した。次年度以降は、カメラ購入や現地サイトへの出張を通じて、助成金を使用する予定である。
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