研究課題/領域番号 |
22K14062
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
鷲見 貴生 国立天文台, 重力波プロジェクト, 特任助教 (30822283)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 背景重力波 / シューマン共振 / KAGRA / 地下実験 / 環境磁場 |
研究実績の概要 |
地上での磁場観測に必要となる地物探査装置Metronix ADU08eを購入し、神岡地上におけるシューマン共振(磁場3軸、電場2軸)の連続観測を2022年8月より開始した。このデータを解析し、シューマン共振スペクトルのモデル化および振幅・共振周波数・Q値といったパラメーターの時間変化(日周・季節)を評価した。さらに、この実測に基づいたシューマン共振スペクトルの時間変化を考慮し、KAGRAとVirgoの2検出器による背景重力波探索感度の理論計算(フィッシャー解析)を行い、時間変動がない場合と比較した。 KAGRAの地下実験サイトにおいては、過去の測定により地上よりもシューマン共振磁場が増幅されることが知られているが、本研究にて詳細な測定を行った。まずKAGRA施設内の様々な場所で磁場測定を行った結果、真空ダクト(1辺の長さ3km)からの距離に応じて磁場増幅率が変化することを確認した。同様の測定を、KAGRAと同じ山(神岡町池ノ山)の地下にあるプロトタイプ重力波検出器CLIO (1辺の長さ100m)の施設で行ったが、そこでは有意な磁場増幅は見られなかった。一方、イタリアの重力波検出器Virgo (KAGRAと同じく1辺の長さ3kmだが、地上の施設)でも同測定を実施し、有意な磁場増幅を確認した。以上により、KAGRA施設で見られていた磁場増幅は地下環境に起因するものではなく、3kmに渡る真空ダクトによって生じる現象であるということを突き止めた。 KAGRAの重力波検出器(主干渉計)の環境磁場応答評価に向けては、雑音注入試験のためのコイル設計と磁場シミュレーションを行い、必要となるコイル用電線とパワーアンプの選定を行った。(購入には別予算を使用し、年度内に納品済み)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神岡地上におけるシューマン共振の連続観測は、予定通り2022年度中旬に開始できた。磁場シミュレーションや背景重力波探索解析については、当初の予定では2023年度以降に実施に予定であったが、前倒しで2022年度内に着手し一定の成果を挙げることができたことから、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。 LIGO-Virgo-KAGRA国際共同重力波観測開始が、本研究申請時の予定(2022年秋)から2023年5月へと延期されたため、磁場雑音注入試験や背景重力波観測は実施されなかったが、そのための準備は計画通り遂行されており、本研究課題としては順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
シューマン共振の連続観測については今後も継続していき、より長期・高統計での評価を行う。また、KAGRA-Virgoの2検出器だけでなく、LIGO(Hanford, Livingston)を組み合わせた 4検出器での背景重力波探索感度の評価や、将来のEinstein Telescopeにおける背景重力波探索感度の見積もりも行う。 LIGO-Virgo-KAGRA国際共同重力波観測が2023年5月より開始されるため、KAGRAにて定期的に磁場雑音注入試験を実施し、環境磁場のカップリングを評価する。また、現段階では感度が不十分であるにせよ、実データに対して背景重力波探索解析を行い、上限値の算出および期待される磁場雑音との比較を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の物品が発注後に納期遅れとなり、年度内の納品が不可能となったためキャンセルしたために差額が生じた。この物品は翌年改めて購入する。
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