研究課題/領域番号 |
22K14084
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古賀 亮一 名古屋大学, 環境学研究科, 学振特別研究員(PD) (10889190)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 赤外分光 / 結晶成長 / イオ |
研究実績の概要 |
木星衛星イオは太陽系において最も火山活動が活発であり、SO2を主成分とした希薄な大気および表面霜に覆われている。前年度に引き続き中間赤外波長帯における実験室分光測定と観測で得られたスペクトルの比較を通じて、イオの表面や大気に存在するSO2の凝縮・昇華による循環の理解をめざした。また、比較対象として、C2H4, C2H6, N2Oの低温凝縮微粒子のスペクトルを取得した。 これまでの装置の改良を行った上で、前年度と同様にターボ分子ポンプを用いてチャンバー内をイオの大気圧に近い~10-3 Paまで減圧し、デュアー内に液体窒素を注ぐことによってコールドヘッドを90 Kの低温に冷却した。赤外透過ZnSeプレートに試料ガスを噴霧することで、その凝縮微粒子を堆積させる。不具合が頻繁に起こっていた温度測定装置および昇温用の電圧コントローラーの修理がようやく完了した。その結果、実験室でアニーリングによるSO2凝縮微粒子の吸光度の比の変化、及び7.3um付近のSO3の生成に起因すると思われる吸収の出現を観測することができた。 この実験装置や手法をまとめ、C2H4凝縮微粒子を用いたテスト測定の成果は学会誌で発表した(Koga et al., 2024)。本題のSO2凝縮微粒子の測定結果は学会発表では報告し、来年度学会誌投稿・受理を目指す。産総研との共同研究で実施したSO2凝縮微粒子の分子動力学シミュレーションは一定の成果が得られた(Ito et al., 2024)ものの、実際の観測結果の比較とその解釈は来年度に持ち越された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来であれば今年度にSO2凝縮微粒子の吸収測定だけでなく、凝縮微粒子の反射測定装置の開発及びスペクトルの測定も行う予定であった。しかし、以下のいくつかの新規開発要素があり、今年度中に開発を完結させることができなかった。1. 赤外光の資料に対する入射角と反射角のコントロール2. より低温に冷却可能な冷凍機の導入3. より広帯域のスペクトルが測定可能なイメージング分光器の開発。 特に1.の検討に苦慮していたが、サンプルホルダーの回転機構の導入でこの問題が解決できる可能性があることがわかった。 しかし、比較対象やテスト測定のつもりでC2H4, C2H6, N2Oの中間赤外スペクトルを取得したが、思いの外スペクトルの時空間変動を見ることができた。これらの結果も今後まとめて公表していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記載の通りに、低温凝縮微粒子の反射イメージング分光測定装置の開発に一番力を入れる。この装置が完成したら、数度ごとに入射角と反射角を変えてスペクトルを測定し、天体に光が照射された時、凝縮微粒子の結晶の形態によってどのように散乱が起こるかを検討する。 本研究の測定結果は地上望遠鏡観測の比較に生かされるようにしたい。最大の候補となる東京大学アタカマ天文台(TAO)望遠鏡は2024年度に運用開始予定は延期された。そのため、昨年度同様観測の詳細な計画を立てて、2024年度以降観測提案が可能になるように準備を進める。これまでの実験結果および2024年度に実施予定の凝縮微粒子の赤外反射測定結果を用いて、TAO望遠鏡がイオのSO2表面霜の吸収を観測するのに必要な積分時間を計算する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新しい実験装置開発に必要な物品の調達が今年度では間に合わなかったため、来年度に持ち越した。特にチャンバー本体と低温低圧下で駆動可能な物品の調達を行い、必要に応じて実験室で保有している冷凍機の修繕を行う。また、実験結果の発表を行う上で、学会の参加料や論文の投稿費などを計上する。
|