研究課題
水同位体は、水文学・気候学において、観測では直接は知り得ない情報を得る手がかりとなる強力なツールである。一方、観測情報が時空間的に不十分であることに起因して、その利用は制限されている。本研究は、水同位体の利用促進を目指し、気象学・古気候学で用いられる最先端のデータ同化技術を用いて、同位体の振る舞いを導入した大循環モデル(同位体GCM)と観測を融合し、地球のあらゆる地点における降水・水蒸気・土壌水・河川水・海水の同位体比を月単位で推定し、過去60年に渡る高精度なデータセットを創生することを目的とする。プロジェクト初年度である本年度は、本邦のフラグシップ気候モデルの一つであるMIROCシリーズの最新版、MIROC6に水同位体を組み込むことから始めた。具体的には、MIROC6の大気および陸面コンポーネントの予報変数全てに酸素・水素同位体を導入した。MIROC6の現在気候における降水同位体比および水蒸気同位体比の再現性は、一世代前のMIROC5-isoと同程度に良好であった。また、降水同位体比などの観測情報をモデルシミュレーションに同化できるよう、MIROC6-isoにアンサンブルカルマンフィルタ手法の一つである局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を組み込み、データ同化システムとした。以上により、次年度以降に取り組む観測誤差推定や、水同位体データセット開発に必要な道具を整備を完了することができた。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した「研究実施計画」によれば、初年度に(1)最新版GCMへの同位体導入と、(2)これにLETKFを組み込んだデータ同化システムの開発を行い、(3)オフライン同化用の背景アンサンブル作成する計画であった。(1)および(2)はすでに開発を終え、(3)は現在計算を進めている最中である。以上のような進捗から、「おおむね順調に進展している」と言えるだろう。
交付申請書に記載した「研究実施計画」通り、次年度は、観測誤差の推定と、水同位体データセットの開発を行う。観測誤差推定は、イノベーション統計を用いて行う。水同位体データセットは、降水・水蒸気・河川水について、1960年以降の全球分布を月単位で推計する。
すべて 2022
すべて 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件)