研究課題
ブロッキング高気圧はこれまで多くの先行研究において乾燥過程の枠組みで研究が行われてきたが、近年湿潤過程による水蒸気による非断熱効果の重要性が明らかになっている。しかし、湿潤過程で鍵を握る水蒸気の起源、また、大気への最大の水蒸気源である海洋の詳しい役割は明らかになっていない。そこで本研究では、再解析データおよび大気モデルを使った理想化実験を用い、現在気候および将来気候における海洋およびその変動のブロッキング強度・頻度への役割を明らかにすることを目的とする。令和4年度は、大気再解析データCFSRを用いて冬季太平洋ブロッキングから大気分散ラグランジュモデルFLEXPARTにて空気塊を時間的に逆方向に追跡し、冬季太平洋ブロッキングへの水蒸気供給源およびその物理過程を調べた。解析の結果、同様の手法で求めた冬季大西洋ブロッキングの結果に比べて湿潤過程を経る空気塊の割合は少ないものの、解析を行った過去約30年間においてブロッキングに到達する空気塊の約30%の空気塊は湿潤過程を経ていることがわかった。また、冬季大西洋の場合と同様に冬季太平洋ブロッキングに流れ込む空気塊は主として西岸境界流から大量の熱と水蒸気を得ることがわかり、その主な熱・水蒸気源は黒潮続流であることが明らかになった。また、湿潤過程を経る空気塊のわずか10%ほどながら大西洋上の主にメキシコ湾流上で熱および水蒸気を獲得する空気塊も見られ、これらの約半分はユーラシア大陸を横断して冬季太平洋ブロッキングへ到達する様子も見られた。一方、残りの一方は大西洋上で熱および水蒸気を得た後に低い渦位を保ったまま大気上層へと急上昇し、その後北極海上を通る最短経路で冬季太平洋ブロッキングへ到達する空気塊も見られた。このような事象は過去に報告された例はなく、現在論文投稿のための準備を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度は、大気再解析データCFSRを用いて冬季太平洋ブロッキング高気圧への過去約30年における湿潤過程の役割およびその水蒸気源を調べ、冬季太平洋ブロッキングへの湿潤過程の重要性を明らかにした他、特に北極経由で大西洋から太平洋へ到達する経路が存在するという、当初想定していなかった非常に興味深い結果が得られた。得られた結果を2022年5月に行われたJpGUおよび2022年12月に行われたAGU Fall Meetingの2つの国際研究大会で口頭発表したほか、2022年9月に行われた日本海洋学会秋季大会でも口頭で発表を行ない、現在国際雑誌に投稿する準備を進めている。また、共著で傾圧性不安定のブロッキング高気圧の維持における重要性を示唆する論文を発表した。以上より、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
令和5年度は、準備している国際雑誌への投稿を行い、論文のアクセプトを目指すことを第一の目標とする。次に、大気再解析データを用い、ここまでの結果で太平洋・大西洋の領域における冬季ブロッキングの湿潤過程の水蒸気源と特定された海域の経年および長期変動とブロッキングへの高気圧性渦位供給の変動の関係性を調べ、現在気候における海洋の経年および長期変動への湿潤過程の強度や頻度の応答、およびそれに伴う物理過程を明らかにする。
前職より異動予定であったので令和4年度は物品購入の支出を控えたため、また、新型コロナウィルス流行のために海外出張に行かれなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は新しい職場での計算機の購入およびデータ・ストレージケースの追加購入に充てる。
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Geophysical Research Letters
巻: 49 ページ: e2022GL097791
10.1029/2022GL097791