研究課題/領域番号 |
22K14103
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 和敏 北見工業大学, 工学部, 助教 (60771946)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | データ同化 / 防災 / PANSYレーダー / 南極 / 北極 |
研究実績の概要 |
海洋研究開発機構で独自に開発されたデータ同化システムや大気大循環予報モデルを使用し、両極域(南極・北極)で取得した大気鉛直観測データが天気予報の初期時刻に使用する大気場(初期値)の再現性や予報精度に与える影響を調べる予報可能性研究を実施した。 南極の観測データに関する研究では、南極の昭和基地に設置された南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)の風速データに着目した数値実験を行った。数値実験でPANSYレーダーの風速データを組み込んだ場合(PANSY観測あり)と組み込まなかった場合(PANSY観測なし)のアンサンブル(再)解析データを作成し、比較結果から「PANSY観測あり」の場合は観測データが取得されている高度1.5km以上の大気変数(風速、気温、高度)に対する誤差やその標準偏差(不確実性)が小さくなることがわかった。また、それぞれのデータを初期値とした予報実験の結果を比較したところ、「PANSY観測あり」の場合は豪州西部に高温を引き起こした低気圧の位置や中心気圧の予報精度が向上する結果を得た。これらの結果から、南極圏にある既存の観測器のデータを天気予報に取り込むことで、南半球の天気予報の精度が改善することを示した。一方、データ同化実験用の観測データを取得するため、2022年11月から2023年3月に南極観測船「しらせ」へ乗船し、船上に設置した気象観測機器による連続気象観測やドローンによる鉛直気象観測を実施した。 北極の観測データに関する研究では、ドイツの砕氷船「Polarstern」による海氷上での通年観測で取得された高層気象観測データに着目した。これらの観測を実施することで、再解析データ内の不確定性が小さくなり、予報精度に影響する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究では、南極圏の既存観測機器の観測データやデータ同化システムを使用した研究成果を英語でまとめ、査読付き国際誌で出版された(Sato et al. 2022, QJRMS)。これらの研究成果については、プレスリリースを行った(EurekAlert!: 2022年08月22日)。資源の枯渇や物価の高騰により、近年世界中で再利用可能な観測機器を利用する動きがあり、本研究はそれらに先駆けた研究成果となったことから注目されている。 データ同化実験に用いる観測データを取得するため、2022年11月から2023年3月に観測船「しらせ」による南極航海に観測隊員として乗船し、再利用可能な気象観測器やドローンによる気象観測を実施した。この観測では、再利用可能な観測器により取得された高層気象観測データが南半球中緯度の天気予報の精度に影響しているのか議論するために必要な観測データを取得することができた。 以上の研究成果から、進捗状況は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降も両極の高層気象観測データを用いた数値実験を実施する。南極圏での気象観測の影響を調べるため、主に観測船「しらせ」や南極の昭和基地に設置されているPANSYレーダーの観測データを用いた数値実験も実施する。観測船「しらせ」では、2022年11月から2023年3月に時間分解能が高い連続高層気象観測が実施されており、この観測データに着目する。PANSYレーダーによる観測は、2011年以降実施されており、観測データが数年分蓄積されている。そのため、1年目の研究で解析を実施した夏以外の時期のデータにも着目し、天気予報の精度へ与える影響を調べる。特に、極域から中緯度における数時間から季節スケールの気象予測の精度向上を目指すプロジェクト(極域予測プロジェクト:PPP)により集中観測が実施された2022年5月から8月に着目し、PANSYレーダーと既存の気象観測や追加の気象観測との影響を比較する。 北極の観測については、既に作成した再解析データを使用し、ドイツの砕氷船「Polarstern」の気象観測が予報精度に与える影響を調べる。また、2023年8月から10月に北極海で実施予定である観測船「みらい」による北極航海に参加し、データ同化実験に必要な気象観測データを取得する。これらの観測データを使用した数値実験にもとりかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部物品の購入を次年度以降に持ち越したため、次年度以降に未使用分を使用する。
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