研究課題
本研究では珪酸塩液体の原子および原子集団の描像を取り込んだモデル化に取り組み、その物性を温度、圧力、組成の関数として予測可能とすることを目標としている。そのために必要なことは1)ネットワーク構造の特徴付け、2) ネットワーク構成元素の拡散機構の特徴付け、そして3)モデル化である。今年度は分子動力学法を用いてナトリウム珪酸塩の1)と2)に着目して研究を行った。ネットワーク構造の特徴付けとして、環構造の特徴付けを行うリングスペクトル解析、及び重合度の偏在を表す手法Qnijkl分類を開発し、国際誌に査読付き論文として発表した(Noritake & Naito, 2023)。ネットワーク構成元素の拡散機構の特徴付けとして、現在注目しているのは結合の生成と解離を粒子として扱うアナンケオンの概念(Egami & Bellisard, 2018)に基づく解析である。元の概念ではVoronoi多面体の変化を結合の変化と対応させていたが珪酸塩中の構造ユニットであるSiO4では結合の定義がある程度明確であるといえるので、Si-O結合の生成と解離をカットオフを用いて判定し、ある時間内で発生したアナンケオンの二体相関関数を求めると興味深い結果を得ることが出来た。i番目の珪素からj番目の酸素が解離しk番目の酸素と結合を生成した際、それぞれの中点をアナンケオンの座標としその二体相関関数を求めると、特徴的な二つのピークを得ることが出来た。塩基度の高い組成では1.5 Å付近のピークが発達し、逆にSiO2成分に富む場合には2 - 3 Åの比較的ブロードなピークが発達する。この結果は国内の学会で発表を行った(則竹, 2022, 鉱物科学会年会)。
2: おおむね順調に進展している
前述の1)ネットワーク構造の特徴付けについては、順調に進んでいると言ってよいだろう。リング・スペクトルは、Noritake & Naito (2023)で示されているように相互に積層バリアントでない結晶相であればそのネットワーク・トポロジーの分類を可能としており、これを液体に適応することでそのネットワーク・トポロジーの特徴を取り出すことができる。但し、当該研究で対象にしたナトリウム・カリウム珪酸塩に於ける混合アルカリ効果の解明には不適当であった。2)のアナンケオンに基づいた解析はネットワーク構成元素の拡散機構の特徴付けに対して有効であると考えられ、更なる考察が必要である。最終的に3)モデル化を行い温度、圧力、組成の関数として輸送係数を予測可能とすることを目標としているが、そのためにはネットワーク構造および拡散機構の温度、圧力そして組成による変化を明らかにしなければならない。現在温度範囲を1900 - 2100 K(100 K刻み)、圧力範囲を0 - 5 GPa(1 GPa刻み)、組成をNa2O・nSiO2(ただしnは1 - 4)として分子動力学計算を行い、種々の物性を記録している。全体の進捗状況は半分程度であるが、今後更に温度圧力条件を細かく、若しくは拡張する可能性がある。
今後はこれまで通り上記の計算を進めていく、進捗の度合いによっては10 GPaまで圧力範囲を拡張するかもしれない。加えてネットワーク構成元素の拡散機構について更なる考察と定量化を行っていく予定である。前述した通り、i番目の珪素からj番目の酸素が解離しk番目の酸素と結合を生成した際、それぞれの中点をアナンケオンの座標としその二体相関関数を求めると、特徴的な二つのピークを得ることが出来た。さて、このピークについて考察すべきことは三つあり、ピークの定量分析、温度圧力組成に対する依存性、そしてダイナミクスの描像である。前者二つは次年度に論文として纏められるだろう、ダイナミクスの描像については次年度いくつかの解析法の開発等を交えて解明する予定である。
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Journal of Non-Crystalline Solids
巻: 610 ページ: 122321
10.1016/j.jnoncrysol.2023.122321
巻: 581 ページ: 121398
10.1016/j.jnoncrysol.2022.121398
Nature Communications
巻: 13 ページ: 2292
10.1038/s41467-022-30028-w