研究課題
本研究では、天体衝突を受けた惑星構成鉱物について、衝撃圧縮から解放、凍結までの一連の衝突プロセスにおける構造変化や変形の様子を時間分解しながら明らかにし、天体衝突現象やそれが惑星進化へ与えた効果などを理解したい。衝撃圧縮法によって天体衝突環境に相当する高温高圧環境を実験室で発生させ、主要惑星鉱物の圧縮特性データを従来よりもはるかに高い圧力領域まで拡張させるとともに、 衝突中および衝突後の融解や分解反応などのふるまいを調べる。当該年度は、衝突プロセスにおける急冷凍結過程を調べるために、前年度に実施した一段式火薬銃による衝撃回収試料の解析を行った。衝撃回収実験は、ルチル結晶と炭酸塩鉱物の粉末(カルサイト、ドロマイト、シデライト)についておこなった。衝撃圧力や空隙率を制御し、計10ショット以上の試料回収に成功した。この過程で最適な火薬量、衝突条件、試料回収法を確立することができた。衝撃回収試料について、当該年度はルチルとドロマイトのX線回折法(XRD)による構造解析、透過型電子顕微鏡(TEM)による原子スケールでの衝撃変成微細組織観察を集中的に行った。その結果、シェアメカニズムによるルチルからα-PbO2型構造への構造相転移モデルを初めて明らかにすることができた。これらの結果は論文としてまとめ、発表した(Umeda et al., JMPS, 2024)。また、ルチルの解析と並行して、炭酸塩鉱物の解析もおこなった。その結果、衝撃圧力30から45万気圧におけるXRDデータを取得することができた。
2: おおむね順調に進展している
衝撃圧縮中のその場XRDデータの取得と衝撃回収実験が順調に進んだことから、今年度中にルチルの解析結果の一部を論文としてまとめることができた。また、炭酸塩鉱物についても予備的な解析を開始し、その過程で最適な測定条件などの検討をおこなうことができた。次年度以降も効率よく本研究計画を進める準備ができているため、おおむね順調に進展していると判断した。
炭酸塩鉱物の衝撃回収試料の解析を継続しておこない、X線計測や電子顕微鏡による組織観察によって天体衝突による構造変化や衝撃変成度を評価し、論文としてまとめる。並行して、カルサイトのその場XRDデータと速度干渉計データの解析を進めることで、融解や分解反応の条件とそのタイムスケールを明らかにする。その場実験と回収実験の結果を相互比較することによって、一連の衝突プロセスを時間分解しながら、衝撃を受けた惑星鉱物の振る舞いを理解する。
当該年度において、予定していた実験のための旅費や消耗品の一部を別の財源にて執行することができたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、実施予定の実験遂行と成果報告(論文投稿・学会発表)のために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 119 ページ: -
10.2465/jmps.230706