研究課題/領域番号 |
22K14123
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
福山 鴻 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特定研究員(学振特別研究員) (70931319)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 下部マントル / 超高圧実験 / 二次イオン質量分析 / 酸化還元制御 / 酸窒化物 |
研究実績の概要 |
本年度前半は、昨年度に引き続き、下部マントル相当の温度・圧力・酸化還元状態を再現した急冷回収実験を地球深部ダイナミクス研究センターで取り組み、窒素定量分析に必要な分の試料の合成を完遂した。 本年度後半は、得られた急冷回収試料の窒素定量分析を行うため、東京大学大気海洋研究所に設置されたNanoSIMSを共同利用した。窒素定量分析には標準試料が必要となることから、MgO単結晶基板への15N+イオンを注入し準備した。MgO基板にN+イオンを打ち込んだ際、基板中に酸素欠陥ができることが報告されており (Heo et al., 2023)、このことが原因で基板表面が時間経過に伴い含水化する可能性が今までの研究代表者の経験から懸念された。そこで、NanoSIMSによる分析の数週間前にイオン注入を行い、イオン注入した基板は乾燥剤とともに真空デシケーターに保存しNanoSIMS分析に臨んだ。窒素濃度の校正直線は、TRIMシミュレーションと東京大学地殻化学実験施設に設置された共焦点レーザー顕微鏡の測定結果を合わせることにより作成した。 結果として、ferropericlase (Mg, Fe)Oの窒素溶解度は、鉄の固溶量増加に伴い指数関数的に増加することが分かった。この原因として、ferropericlaseがNaCl構造を持つ鉄の酸窒化物 (FeOxNy, x + y = 1)と固溶体を形成することが強く示唆された。本成果は下部マントルの窒素最大貯蔵量を一新するものであり、極めて重要であると捉えている。さらに、地球全体規模での窒素の存在状態を考えた場合、窒素の多くはN3-として存在する可能性を示唆した点も特筆に値すると思われる。これらの成果は論文投稿する準備ができつつあり、日本地球惑星科学連合2024年大会では招待講演に選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
下部マントル主要鉱物が還元的条件下 (Fe-FeO buffer)で酸窒化物化することを、本年度の研究によって強く示唆したため。 Fe-FeO bufferでは窒素はアンモニアとして多く存在することに加え (Li et al., 2014)、28 GPaという本研究の超高圧条件では、N2 + 3H2 → 2NH3という反応が卓越しやすい。そのため、酸化物であるマントル主要鉱物が酸窒化物化することは材料科学の観点からも調和的であり、地球科学と材料科学を横断するような展開が今後期待できる点は当初の想定以上であると考えた。また、論文原稿の第一稿は本年度中に仕上げており、今後国際誌に投稿できる準備を大きく進めることができたことも加味した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた成果は速やかに2024年度に論文投稿をしていく予定である。 上記の成果に加え、下部マントルで最も多く存在するbridgmanite ((Mg, Fe)SiO3)の窒素溶解度と鉄の固溶量の関係を、今後フランスのCRPGとの共同研究により精密決定する予定である。bridgmaniteはペロブスカイト構造 (ABO3)を持つ鉱物であり、同様の構造を持つ酸窒化物はAサイトが酸化される反応によって過去に多く合成されている (Ebbinghaus et al., 2009)。このことから、bridgmaniteは鉄固溶量の増加に伴い窒素溶解度が上昇することが見込まれる。 一方、海外渡航費や分析料が2024年度の本研究費を超過する可能性があるため、財団が運営する基金に応募するといった対応をしていく。 また、研究代表者の異動に伴い、2024年度の高温高圧実験は愛媛大学先進超高圧科学研究拠点 (PRIUS) 共同利用・共同研究によって進めていく。
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